『犬猫』8mm版と35mm版を続けて見た。女子映画。両方よかったけどやっぱり、奇跡的なものを再現はできないってことで。あと、このまえ『空気人形』も見たけどあれはちょっと。

8ミリ映画 犬猫 [DVD]

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さいしょに8mm版から見たけど、さいしょのほうでアベチャンをのせた飛行機が「きーん!」「ごぉー!」ってかんじで飛んでいくところで、なぜかいきなり笑えてしまってそこからずっと乗って見れた。ここ!というような画がほら!またほら!見て見て!ってかんじで出てくる。階段とか坂道とか奥行きにずっと続いていく道とか、三叉路であれ?ってなるところとか、商店街をどんどん走るところとか、しゅーっとすべってくるところとか殴るところとか。ヨーコちゃんが外出てくるっていう前の上向いてる顔がじわっと続くところとか。アイロンかけてるよこで横になった猫のしっぽがくるんくるんしているところとか。飛行機とびするところとか。いろいろ。
で、そのあと35mm版を見たのだけれど、まぁなんというか、画はきれいになってるし、女優さんも男優さんも美男美女寄りになってるし、セリフとかも説明を補ってるし、8mm版のときには登場してなかった携帯電話ってのを「なくす」シーンをちゃんと入れてるし(しかしあれですね、携帯電話が発明されてドラマはつくりにくくなったんだろうねやっぱし)、それがプラスなのかどうなのかは微妙で、このはなしはそもそもふつうの女子のはなしなので、榎本加奈子(メガネ着用)と藤田陽子(モデル系美人)ってだけですでにかなり、ふつうさが薄れてしまうのがむつかしいところ。なので、やっぱり8mm版は奇跡だったんである。並べてみると、8mm版のヨーコちゃんはまったくもって胸に迫るものがある。まぁ、8mm版のほうは、出てくる人があんましふつうっぽすぎて、しかもみんなメガネのフリーターみたいな自主映画周辺男女がぞろぞろでてくるのでしょうじき見分けがつかなかったけれど。
DVD特典映像のメイキングがまたよかった。これはどっちも。

そうそう。
両方のメイキング映像を見ててはたと思ったのだった。8mm版のほうは、「殺伐とした現場だった」ってことで、それは自主映画でお金や時間もふくめ条件が過酷だったってこともあるにせよ、とくに監督がヨーコちゃん役をかなり追い詰めてやってたってのがある(蹴っ飛ばしてたんだそうだ)。いっぽう、35mm版のほうでは、みんなが、自然体でうたた寝できるような、差し入れもおいしい、ゆるくてきもちいい現場だった、みたいなことを言っていて、それは、役者に対する監督の要求としてオーバーアクトするな、自然体で行け、というのがあったのでそのためだということなのだけれど、とくにこれまたヨーコちゃん役の榎本なんかは、「遅れていっても歩いていってみんなが見てるところでだけ走って「スミマセン」って言う」なんて言ってるわけで、そういうのがやはり画面に出ている。榎本が商店街を走るシーンで、キャメラに追いついてなくてフレームアウトにもほどがあったのも、演出なのかとも思っていたけれど、やっぱり榎本が手抜きをして全力疾走をサボってたってことかもしれないし、また、その前の、ちょっと出てくるって言うシーンも、撮り直し撮り直しだったっていうけど、そりゃNGを見たら、顔が笑ってるもの。8mm版のときのヨーコちゃんの、なんともいえん表情というのとはぜんぜんちがうわけで、たぶんこのふたつの映画の違いというのはそこにいちばん端的に出ているような気がする。8mm版って、得体の知れない緊張感があって、女子映画なのにっていうより女子同士ならではの掴み所のない関係の緊張感があったと思って、そのへんが、35mm版では、なんかたんなる癒し系映画みたいになりかねないことになってると思った。俳優を自然体にするのはいいとしても、同時に、ヨーコちゃん役の榎本なんかは、精神的な次元で追い詰めてやらないといけなくて、表情から心の余裕とか皮肉っぽい笑いとかが金輪際浮かばないぐらいにしないといかん、そうしたらもっといっしょうけんめいさとか出てくるし、たぶん、カラックスの映画のドニ・ラヴァンぐらい必死に全力で商店街を走ると思う。
ところで
このまえ『空気人形』も見てた。
空気人形 [DVD]

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これ、きわどいテーマで、でもきわどいテーマをぐっといい方向性に持ってった映画、ってことになるかとおもいきや、なんかアンマリな映画になってたと思った。