『市民の日本語』。いい本だ。

学生に薦めた新書本を読むシリーズ。
この本は知らなかったし、そもそも同僚の先生にこの本をリストにあげていただいてはじめて、ひつじ書房が新書を出していることを知った。
ひつじ書房っていうと、言語学系の本を出しているので知っている、でも「知のデータベース・火星の井戸掘り」(http://fleamarket.shohyo.co.jp/mars/)という検索サイトを運営していることのほうで、先に知っていた(ていうか自分のサイトも入れてもらっていて、いいかんじのコメントを書いてもらってたので)。学内でいっしょに研究会をやっている言語学の先生からも、ひつじ書房おもしろいですよとお噂を聞いてたりして、なので、ちょっと印象のある出版社なのである。
で、この本。このタイトルでいけば、なんらかの社会言語学的な本なのかと思っていたのだけれど、読んでみたら、著者は市民のネットワークづくりとかワークショップとかをいろいろやっている人で、「全国を飛び回り、さまざまな人々をつなぎ続けているNPO活動の仕掛け人の一人」という著者紹介にある。そういう人が、そういう話を、語りおろしで語っている本。なので、言語学の本でもないし、「言語」について、「コミュニケーション」についての本、とかいってもちょっと印象が違って、だいいちには「ひとびとの活動」についての本、ってかんじ。で、「ひとびと」が「活動」をちゃんとやって/考えていくには、ことばをきちんとやって/考えていかないといかん、という意味では、「ことば」の本でもあるし、ちゃんとした意味において「コミュニケーション」についての本でもある、というかんじ。
語りおろしなので、ことばじたいはわかりやすい(読み進めていてふと気づいたのは、「章立て」がないことで、それを読みにくいといえば、読みにくいのだけれど、語りに章立てなんてないじゃんといわれればそのとおりである)。出てくる例とか考え方とかは、けっこうぐっとくる。
仙台市で、ごみのポイ捨て問題について条例をつくるというときに、市民の声を聞きましょう、と提案すると現場担当者のほうは「えー?」って顔をする。ていうのも、市の環境局にはふだんから、「ごみを捨てるやつがいる、なんとかしろ!罰金を課せ!警察に逮捕させろ!!」とかクレームの電話がじゃんじゃんかかっているからで、市民の声っていうとそういうのがワンワンあつまってきて収拾がつかなくなる、という不安が(当然)あるから、というわけである。そんで、まかせてください、そんなふうにはしませんから、といって、ワークショップをやって、うまいことうまいことやる、と。そういう難儀なクレーム電話をかけてくる人っていうのが、じつは普段からごみを自分で拾ったりしていて、それでも報われなくてイライラ来ているひとなわけで、つまり、ほんとはそういう人たちがいちばん積極的に前向きに問題解決に取り組む可能性がある人たちだっちゅわけで、なるほどそらそうや。そうすると、ここでの問題は、そういうひとりひとりのひとたちを「依怙地な善意のクレーマー」にしたてあげてしまい、市の現場担当者を「市民の声を聞かない事なかれ主義の官僚」にしたてあげてしまうところの、相互の排除、みたいなものであって、つまり、コミュニケーションっていうかことばの問題、なわけである。みたいなことか。そこからまた、もうちっと輪が広がって、住民投票みたいなことになったばあいに、ただ形式的に多数決をしてしまうと、あっとうてきに無関心でなんにもかんがえてない大多数の票があたかも「多数者の声」みたいになってしまう、とか、そのへんのはなしがおもしろかった。