むやみに面白い謝依旻(「謝依旻」の検索結果 - クリッピングとメモ)、今期は先日、山田規三生NHK杯選手権者に勝ってしまって、なんと準々決勝まで勝ち上がって羽根くんと対決するはこびとなった。で、楽しみに見たら、解説が趙治勲、これはまったくねがってもない面白い顔合わせである。
で、話の前提として、謝依旻、女流三冠(この対局後につい先日、ひさびさにひとつ落としたけど)でずっとタイトルホルダーなので忘れがちだけれど、まだ若手の六段で、総合的な実力的に言うとまぁそんな感じであるのだろうと想像する。なのだけれど、妙に泥仕合闇試合で勝つような瞬発力というか腕力というか、ここぞというところの鋭さがあって、それがしばしば格上の相手の調子を狂わせてポカを打たせることにもなって、NHK杯早碁、などという舞台で相手が倒れていく、ということにもなるのだと思う。
で、羽根くんというのは、いつでも中間色の仕立てのよさそうなスーツを着て、おっとりとして育ちがよくて、無理をしない、ケンカもできればしたくない、バランスがよい上品な碁を打つ人だというイメージで、もちろん四天王とうたわれてるうちのひとりなので強いのだけれど、あまりギラギラとこれみよがしじゃないかんじ。なので、ふつうに打ったらもちろん謝依旻など相手にならないんじゃないと話が合わない、のだけれど、なんとなく羽根くんは相手がものすごく下品に泥仕合にもつれ込んで来たら調子を狂わせてしまう、というイメージもあったりするので、ちょっと心配でもあるのだ。
で、こちらは謝依旻ファンであるのだけれど、さすがに前回、山田くんが負けてしまったのはいろいろよくないと思っていて、つまり、どこかでしっかり壁にぶつからないと、もう一段階成長しなくて下品な寝業師で終わったらいかんいかん、と思っているんである。なので、羽根くんにはぜひ、涼しい顔をして謝依旻に何もさせずに勝ってほしい、というのが希望であったわけである。
で、解説が趙治勲。さいしょから「謝さんぜひ勝ってほしい」とか言ってたわけで、もちろんそれは羽根くんが相手にしないということの裏返しであるわけなんである。
で、どうなったかというと、結論的には羽根くんはほぼ完勝だったようだ。謝依旻、羽根くんに流れを奪われてなにもできずに、途中で顔を紅潮させてため息をついたりしながら打っている。趙も解説で、「いま謝さんは、なんて強い相手なんだろう、と思いながら打ってますよ」とか言ってて、まぁ、それは客観的にはいいことなんである。
で、じつは最後のところで一瞬だけ、謝依旻らしい鋭い反撃を打って、一瞬、羽根くんの顔を曇らせて、趙の解説にも面白い材料を提供して、それでもまぁ羽根くんはきちんと対処して、それで投了、となった。ちょっといきなりっぽかったけれど、趙治勲いわく、「ずっと流れをつかめなくてつらかったけれど、最後に謝さんらしい手を打てたので、力を出し切って満足できたっていうことでしょう」とか。
謝依旻が強くなったら羽根くんのようなタイプよりはやはり趙治勲のようなタイプになるかもしれず(っていうか殺し屋加藤みたいになるのかな)、解説にもちょっと後進への愛情が感じられなくもなかった。