『若者殺しの時代』読んだ。村上春樹のパスティーシュによる80年代論。

若者殺しの時代 (講談社現代新書)

若者殺しの時代 (講談社現代新書)

学生に勧める新書をさぐる流れで。若い先生が推薦してはったので読んでみた。わるくない。著者が1958年生まれのライターの人でこの本が2006年。大学には浪人して入ったらしくて、80年代を若者として過ごしたということのようで、80年代の青春時代を振り返って自分史と社会の変化を重ね合わせる式の本はけっこうあるけれどそのひとつだろう。このジャンルは、「その時私はそこにいて目撃した&あの人やあの人とツレだった」、という噂話が読ませどころであって、たとえば香山リカだったら松岡正剛周辺との愛憎とか自販機雑誌サブカル人脈とかとの交流とか若かりし頃のニューアカ人脈とかを書いてればそれっぽくなる(http://d.hatena.ne.jp/k-i-t/20080710#p2)わけだし、大塚英志であれば同時期のエロ雑誌界隈のもう少しおたく寄りの噂話になるだろうし(http://d.hatena.ne.jp/k-i-t/20110816#p1)、で、この本はというと、80年代に早稲田の漫研にいてそこからなし崩しにライターになっていった人、の若いころのはなし。あんまし有名人はでてこなくて、漫研の後輩?らしきけらえいこという人と、やはり漫研(?あるいは別のサークル?)の後輩の町山智浩という人がほぼ名前だけ一瞬でてくるぐらい。まぁ、そのぶん、80年代は基本しょぼかったという実感は出ている。この本を勧めてくれた先生はたしか70年代うまれ90年代に学生という世代なので、この本をどう読みはったのかは興味があるところ。
ところで、この本は一ページ目から誰が見たって村上春樹クローンな文体で書かれている。それがどういうつもりなのかはかりかねつつ、まさかひょっとしてたんなる春樹さんファンの村上クローンだったらアホやぞと思いながら、なにしろ80年代から90年代の若者文化論なのでいつ村上春樹の名前が出てくるか、もしふつうに出てきたらアホ決定やぞと思っていたら、さすがに出てこない。あとがきのさいごに文体について種明かしをしているけれど、まぁ本人のしたり顔が浮かばなくはないけれど、そのへんはさして気が利いてるとも思えない。80年代というのは、まじで村上クローンの文章を書く素人がほっといてもたぶん山ほどいたわけで、それはやはりいたたまれないことだ。ただしそういう感覚も世代的なものかもしれないし、若い人からしたらどうでもいいことなのだろうと思う。