通勤電車で読む『生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由がある』。徳島の小さなコミュニティのフィールドワーク。平易な語り口でおもしろい。学生に勧めれる。

生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある

生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある

HONZで紹介されてた本は、通勤電車で読むのにちょうどいい。で、紹介されてた(http://honz.jp/32280)のを読んだ。おもしろかった。ちょうど授業で自殺率の話をしているところなんで、学生さんに勧めれると思った。
徳島にある小さな田舎町で、市町村単位で自殺率をとると全国で一番低い(島をのぞく)海部町というところがあるのだそうで、その自殺率の低さは何なのか、というのを、フィールドワークした本。そうするとたしかに町の人たちには、なんとなしに独特の人生観とか人間観とか人間関係とかがあるようにみえてくる。それを明らかにしたよ、という本。まぁ要するに、個人主義や多様性を尊重しつつコミュニティがきちんと形成されている、というかんじ。まぁ、語り口が平易なぶん、論証となる記述が薄いところもあると感じたけれど(たとえば、町の人たちが「いろんな人がいてもよい」と感じていることはわかるが、「いろんな人がいたほうがよい」とまで思っているかどうかは、ここに挙げられた例からだけではもうひとつ説得力を感じなかった)、ともあれ、言わんとするところはわかる。
フィールドワークが主だけれど、同時に、全国の3318市町村の統計データを、つまり市町村レベルで(都道府県単位で見ても見えてこないものを見るために)分析する、ということをやっている。たとえば市町村単位の自殺率と、その地域の標高との関係を調べる。そうするとある関連性が見えてくる。また、工夫として、地図会社の協力の下、その地域の「傾斜度」を指標化してみてみると、傾斜度が高いほど自殺率が高くなることが見えてくる。つまり、急峻な土地、住民相互の行き来、あるいは日常的な社会的資源へのアクセスが悪い地域では、それだけ平地よりも自殺率が高くなるというわけである。そんなふうにして、こまかく見ていった調査。
専門書ではなくてどちらかというと読みやすいほうの一般書なので、調査を思いついたところから、指導の教員や周囲の人たちからどういわれたか(反対された)、どうやって調査を進めていったか、どう感じたか、調査のどこでピンときて視界が開けたか、そして調べた結果をまとめたものをどう被調査者にフィードバックしたか(町で、膝つきあわせた座談会のようなかたちで調査結果を説明する機会を何度も持った)、といったこともざっくばらんに書いてあって、そのへんも学生さんに勧めたいところ。