- 作者: 渡邉格
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/09/25
- メディア: 単行本
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パン屋さんといっても、イーストを使わないで天然の菌(麹とか)と自然材料を使って作っている、一個700円ぐらいの値段のパンを売ってるパン屋さん。考え方が根本的に違うわけで、話の入り口は、純粋培養のイーストと添加物たっぷり、農薬たっぷりの小麦から作ったパンについての「買ってはいけない」的な話もありつつの、オーガニックというか、菌とともに生きる、風の谷のナウシカのような(じっさいそう書いてる)ことを言っていて、純粋培養のイーストでは味も単純、天然の菌を使っても輸入の小麦の小麦粉では腐ってしまう、自然生産の小麦は生命力が違うので見事にふくらむ奥深い味のパンが焼きあがる、天然の菌はリトマス試験紙のように、不自然なものを腐らせて生命力あふれるものを見事に発酵させる、ナウシカの腐海のように・・・というぐあい。どこまで信用できるかはともかく、輸入小麦粉を扱うパン屋さんが職業病のようにアレルギーになって体調を崩していくというような「買ってはいけない」的はなしのあとでおいしそうなパンの写真といっしょに読むと、生命ってすばらしい、700円払って天然麹パンがたべたいわ、と思えてくる。でこの本、もう一つの柱がマルクスで、著者の人がさいしょに修業したブラック会社的パン屋さんの過酷な労働と人工的量産型パンの思い出が、マルクスが描いている19世紀ロンドンの量産パン屋の労働者についての議論に結び付けられて「腐らない経済/腐る経済」という対比 − もちろん「腐らない経済」、グローバル資本主義というのはおかしいのであるということで − が出てきて、腐敗/発酵と上手に付き合うパン屋、というおはなしにもなる。まぁとりあえずパンがおいしそうなのでおもしろかった。まぁパン目線で。