通勤電車で読む『東芝解体 電機メーカーが消える日』。おもしろいとは言ってられない面白さ&エンドロールのおわりまで見逃すな!

東芝解体 電機メーカーが消える日 (講談社現代新書)

東芝解体 電機メーカーが消える日 (講談社現代新書)

なんか評判だったので読んでみた。帯に「本書は名著『失敗の本質』の総合電機版である』と書いてあって、なるほど、いま日本の電機メーカーがのきなみ苦しんでいる状況について、なんでこうなったのかを、会社ごとにドラマチックに描いている。たしかに、第二次大戦で日本が敗北したありさまに匹敵するぐらいの、のきなみの苦境なわけで、それは、日本の電機産業をながらく支え続けてきた構造、政官と強く結びついた「電力ファミリー」と「電電ファミリー」による安定的な!インフラ需要というのが崩れたってことですよ、という見取り図がのっけから提示される。なるほど、日本の電機メーカーにとって「本業」は、ながらく、電力会社と通信会社のインフラを提供する、ということであって、半導体だの液晶だの家電だのというのは、「本業」で潤沢かつ安定的に得られる資金を投入して研究開発を行うことで一時的に世界で戦うことができた、「親の金でやってた博打」だったと。ところがそうした構造が、「通信自由化」「電力自由化」をきっかけとして崩れた時に、日本の電機メーカーには死に物狂いで変身を遂げて世界の戦いにくらいついていくことがなかなかできず、いつまでも技術力神話とかにしがみついて既得権にすがろうとしているじゃないか、それでいまのようなありさまになったのだよ、という診断。なるほどねえと。ここで描かれている、電機メーカーの業界全体としての総崩れっぷりは、唖然とするばっかりなんだけれど、このように説明されるとなるほどねえと思うわけだった。でもって、そのような総崩れというのはたぶんいろいろな領域でおこりうることなのだろうし、げんに起こっているということもあるだろうし、そんなときにこの本を読むと、話が具体的であるだけ、いろいろと参考になるところもあるだろうと思った。そしてついでに、各メーカーの阿鼻叫喚の記述が一通り終わって、本書のあとがき、「おわりに」のところを見ると、ホンハイ傘下に入ったシャープで現在起こっている新しい動きについてちらっと触れている。技術者たちは、会社の看板がどうなるかということよりも、潤沢な資金力とグローバルな販売網でもって、よりよいものを作って世界で戦いたいんである。シャープの天理総合開発センターでは、ベテラン技術者たちと若手ベンチャーたちが集まって「モノづくりブートキャンプ」が行われて活気がよみがえっている。仙台に本社のあるアイリスオーヤマは、家電部門に進出するにあたって関西に拠点を置き、そこにもともと関西のメーカーで家電を作っていたベテラン技術者たちが集結しているのだと。

かつて「世界最強」を誇った日本の電機メーカーは、氷河期に適応できなかった恐竜のように壊滅した。だが、それですべてが終わったわけではない。風に吹かれたタンポポの綿毛のように、古巣を離れ、新たな土地で芽を出そうとしている人々がいる。彼らが作る会社や事業は、総合電機に比べればちっぽけだが、環境に適応した哺乳類のように小回りが利き順応性が高い。・・・

映画でいうとエンドロールのおわりになってふと小さい光がさすような、ちょっと泣かせるエンディングなのだった。