『発話冒頭における言語要素の語順と相互行為』読んだ。よかった。

発話冒頭における言語要素の語順と相互行為

発話冒頭における言語要素の語順と相互行為

えーと、ですね、まぁ、あれです、著者の人は会話分析をやるひとで、どうやら言語学系の人で日本語教育の人であるようで、そうすると、なんとなく会話分析のなかでも一定のイメージを持ってしまうわけだけれど、冒頭から、会話分析は伝統的な言語学とは異なり社会学の中で生じた領域である、と何度か念を押しているわけで、社会学の人間が親しみを持って読めるかんじの会話分析が行われている。まぁ、「発話冒頭における言語要素」という、まぁ具体的には「え」「あ」「えーと」「なんか」「でも」「いやあ」等々、発話の冒頭にくっつく要素があるわけで、それらを「遡及指向要素/後続指向要素」に大別してさらに分類したり、それらが発話の中に現れるときの規則(とくに語順について)を見たり、それぞれの発話の中でどのように働いているかを見たりもするわけだけれど、そういう言語現象の分析をしてるのだから言語学なのだろうけれど、ここで見出される規則性を、相互行為のリソースとしての規則だと強調するところまで込みで、社会学の人間に親しみやすい(ちなみにその第7章4節の見出し「檻としての語順から塀として[の]語順」というのがたぶん脱字になってる。ついでにいうとp6の「TCU」の説明の参照文献著者がSackになってるのはSacksの脱字でしょうか)。
この研究の「意義」について、いちばんさいごに書いてあるのだけれど、学術的意義をのべたあとに、実践的意義というのを言う前置きが長く書いてあって、そのへんもいかにも社会学の人間に親しみがわきそうな書き方でよかった。
あと、読みながら結構ずっと思ってたのは、おたくの人とかの発話のステレオタイプとして、「あっ、」とか発話の冒頭にやたらくっつく、というのがあるように思うのだけれど、その「感じ」は、どう位置づくのかなあとか(さしあたりの正しそうな答え的なものとして、a:「話者のカテゴリー(「おたく」とか)は、相互行為の中で参与者に志向されたときにはじめていみをもつので、分析に先立って話者に「おたくの人」みたいなレッテルを貼ることはしない」、というのと、b:「おたくの人が何を考えて「あっ、」と言ってるかはここでは問わなくて、ここでの分析は話者の心理状況みたいなものとは別の次元で、相互行為の中で発話とか語とかが組み立てられていくやり方に注目する」というのを思いつく。それはそうだとして、しかし、本書のさいごのところでコミュニケーションの障害に関連する発話冒頭の問題がちらっと言及されてて、そうするとつまり、心理状況の次元でなくてコミュニケーションの次元で、問うことはありなのではないかと、ちょっと思う。つまり、発話冒頭で「コミュニケーションの回路を開く・繋げる」ということを行う手段として「あっ、」が機能してるのでは、とか、だとすると逆にいうと、いわゆる「自然な会話」が、いわば「常時接続」を相互に前提としてるのだとすると、おたくの人がその前提を欠いていて、ぶつ切れの状態からいちいち「あっ、」と言ってコミュニケーションの回路を開きなおす・繋ぎなおす、のでは、等々…というか「おたくの人」と書いたけどまぁ要するに自分の実感がそうなのだろうね→や、まぁあれです、そういうのもだからこの本の追及してる課題とは関係ないはなしではあるね、この本が注視するのは、発話冒頭に複数の言語要素が付くときの語順と相互行為、だからね)
ところで、この研究は、TalkBankという会話コーパスを利用している、というのも興味深い。そういうのもあるのか。
https://talkbank.org/