通勤電車で読む『ビジュアル ゲーム理論』『ゲーム理論入門の入門』。なぜ囚人が出てこないほうがいいのか。

ビジュアル ゲーム理論 (日経文庫)

ビジュアル ゲーム理論 (日経文庫)

ゲーム理論入門の入門 (岩波新書)

ゲーム理論入門の入門 (岩波新書)

この4月にあいついで出たらしい、ゲーム理論の新書版の入門書2冊。
「ビジュアル」のほうは、『図解雑学ゲーム理論』の著者による新書版だった。
通勤電車で読む『図解雑学ゲーム理論』。よい本だというので。自分的に納得感があったのは、囚人がなかなかでてこなかったのがよかったのかも。 - クリッピングとメモ
で、この本でもやはり囚人がなかなかでてこなくて、出てきたときも「囚人のジレンマ」の説明として出てきただけで具体例は環境問題の例とかになってた。で、納得感があった。この本、自分的には、ゲーム理論入門の新書本でいちばんわかった感があった。
で、ゲーム理論のなにがなっとくいかないかというと、ふつう、あっというまに囚人が出てきて利得のマトリックスが出てきて、ドヤ顔、みたいなことになるけれど、両者が自白したら懲役何年、とか一方が自白したら何年、とかいうのが、いかにも適当に作った数字で、しかも↑前にも書いた通り、懲役1年とか懲役5年とか25年とかいうのは実体的な数字というわけでもないかんじがして、つまり25年は5年より20年多いですとか5倍ですとか、そういう加減乗除ができる数字なかんじがしない。もっと質的な違いを表現してるような気がして、そういうものをマトリックスにしても意味ないかんじが直感的に、する。でまぁ、そのへんのしっくりこないものをわざわざ例としてもってくるというのは、書いている人に説明の能力が欠けてるんじゃないかと。で、この本は、「囚人のジレンマ」そのものが本の半ばまで出てこない。本の最初のほうの一番単純なゲームの例は、競合する雑誌が、何を特集記事に持ってくるかで購読者を奪い合う、というもので、こういう講読者数というのは、「年数」などと違ってとてもすっきりと腑に落ちるし、「利得は正確でなくても(順序があってれば)いい」といった説明がさらっとなされてるし、さらにそれについて、利得の数字をちょっと変えることでゲームの構造が変わるよという話にもちゃんと一節を割き、条件を少しずつ変えてゲームの構造が変わっていくというのは、ひじょうに納得感がある。で、本の半ば以降、応用問題みたいなはなしにようやく囚人のジレンマが登場するが、具体例としては環境問題が例になってて、利得の数字は、お金ということになっている(これも直感的に迷う余地がない)。でまぁ、ビジュアル版ということなので見開き左のページが説明、右のページが図、という構成なので、ページ数は実質半分というかんじなのに、わかりやすい具体例を繰り返し少しずつ変奏しつつ調子よく段階を追って説明が進むので、参考書的なわかりやすさで納得感があった。
ゲーム理論というのは(というかモデルを立てる理論というもの一般がそうなんだろうけど)、具体を抽象的なモデルに変換して操作するわけで、その具体を抽象に変換するところが(まぁすくなくとも自分にとっては)むつかしいところだとおもうんで、たとえば囚人の懲役何年、自白すればどうのこうの、みたいな具体的なことがらを利得のマトリックスにするというのは、けっこうびみょうなものを含むと思う。で、まぁ最終的にはその変換ができるとしても、入門者向けにはなるべくそのへんのハードルをクリアしやすくする気遣いというのがあってしかるべきだなあと思って、ところが、けっこうゲーム理論の人というのはその具体を抽象に変換するところに引っ掛かりを覚えないタイプの人というか、具体を抽象に変換したあとの操作の便利な世界に魅力を感じている人なのだろうなあというふうに見えて、つまり、そういう人が入門書を書くと、入り口のいちばん違和感のある部分があんがい工夫なく差し出されてるっていうか、むしろドヤ顔感というか、具体を抽象に変換するときにごちゃごちゃひっかかるやつはダメ、みたいな雰囲気で押し通しながらゲーム理論は万能であれもできますこれもできますとオモシロ具体例をじゃんじゃんマトリクスにして「解い」てるような(まぁ被害妄想かもだけど)かんじがするんである。だけど、やはりたぶん自分のような人は初学者にはいるだろうし、まぁ説明というのはできるだけ不必要なハードルをなくしていく気配りというのが肝だと思うので、そのへんで、「囚人のジレンマ」の出て来かたというのが、説明の上手い下手のひとつのわかりやすいめやすになるようなきがするんである。
それでまぁ、もう一冊『ゲーム理論入門の入門』のほうは、帯にいきなりでかい文字で「囚人 の ジレンマ」(だけで終わってない)とあり、不穏。けっこう早い段階で囚人登場、というか、「ルパンと次元」のはなしになっていて、ルーブル美術館でどうのこうのとかしょうもない関係ないストーリーが付け加えられている。具体例をわかりやすくするためにおもしろストーリーでふくらませばいいという発想が不穏である。そして、いろいろなゲームの例が、「ラブジェネレーション」とか「AKBじゃんけん大会の篠田マリコ」とか「2014都知事選で舛添と細川の戦い」とか「宮崎あおいケータイ刑事銭形愛)と岡田准一木更津キャッツアイ)の結婚」とか、なんか現在を感じさせなかったり、あとは自分と嫁の家事分担のナッシュ均衡のはなし(の前ふりに、小樽商科大学で経済学の学会があってうんぬん、ラーメンが楽しみだが出張になると家事分担は…みたいなどうでもいいエピソードが書かれたり)とか、バークレーにラーメン屋が進出するみたいなこれもべつに特にものすごく興味がわく話ではないのに一風堂だかじゃんがらだかよくわからん固有名詞がじゃかじゃかでてきて気が散るとか、まぁ、不穏。