『辞める研修 辞めない研修ー新人育成の組織エスノグラフィー』読んだ。1stオーサーは『丼家の経営』の人。いいもんとわるもんがはっきりしていて読みやすい(のかどうなのか)。

辞める研修 辞めない研修ー新人育成の組織エスノグラフィー

辞める研修 辞めない研修ー新人育成の組織エスノグラフィー

あるIT系ベンチャーの研修に関わった人がその経験を参与観察として、法政大学での指導教員である『丼屋の経営』の著者の人をファーストオーサーにして、共著としてまとめた本、というかんじ?
通勤電車で読む『丼家の経営 24時間営業の組織エスノグラフィー』。おもしろいけどところどころ我に返って「おい?」といいたくなる。 - クリッピングとメモ
冒頭、パワハラ的空気の緊張した新人研修風景からスタートし、担当者の「鬼軍曹」が新人を激詰めしてるけど、その「鬼軍曹」自身が4時間しか寝てないんだから新人たちは何もいう事ができない、というブラック職場感あふれる説明が続き、そして著者の人はその鬼軍曹の下で研修担当者として働いているらしいのだった。厳しい研修を耐え抜くことができずに辞めていく新人たちも多いという。うへぇ、と思いながら読んでいると、意外にもこの「組織エスノグラフィー」は、この「鬼軍曹」上司を賞賛的な筆致で描き出すわけで、夜も寝ずにこの厳しい研修を行っている鬼軍曹によって、新人たちは組織の規律を「内面化」し、一人前となって会社の戦力となるのだ、という描き方をする。経営学の、ミンツバーグとか、あとドラッガーとかいう、ドラッカーのそっくりさんみたいなあまり聞いたことのなさそうな名前の人とかの、フレーズとかがぱっぱっと引用される。でもって、しかし、少なくとも著者の人から見ればうまく回っていたかにみえる研修は、会社の方針と組織替え、そして担当者の変更によって、大きく変化、ないし変質してしまう。研修の脱落者の多さがひとつの問題となり、脱落者を減らすために、寄り添う感じのニコニコ研修になる。それでどうなったかというとぜんぜんダメになったというふうに記述は進むわけで、つまり本書のタイトルの「辞める研修、辞めない研修」というのは、自分が尊敬していた鬼軍曹上司がやっていた厳しくもすばらしかった良い研修と、方針変更によってだめになってしまった悪い研修、というふうに、まぁ読める。いいもんとわるもんがはっきりしているので、読みやすいといえば読みやすいのだろうけれど、組織エスノグラフィーですということでその積もりで読む分には、なんかこう正直?というか、社内で冷遇された社員さんが現体制を批判してるのをえんえん読まされているようなかんじになって、まぁしんどいといえばしんどい。それで、これは共著者の参与観察者の人が実質の著者なのだろうかと一瞬よぎったが、やはりたぶん実質的な著者は1stオーサーである『丼屋の経営』の人なんだろうなぁ、と思うのは、本書の、ブラック企業とかパワハラ上司とかの目線に立った描き方とか、いいもん(とわるもん)がはっきりしてるかんじとか、ミンツバーグとかドラッガーという人(ドラッカーのこと?)のフレーズを一言ぱっぱっと引っ張ってくるかんじとかが、(このまえ読んだ『大学のトリセツ』シリーズも含め)けっこう一貫しているなあと感じたから。
通勤電車で流し読む『先生は教えてくれない大学のトリセツ』『先生は教えてくれない就活のトリセツ』『教授だから知っている大学入試のトリセツ』。著者は『丼家の経営』の人で、いま法政大のキャリアデザイン学部教授。 - クリッピングとメモ
ところで、
ちょうど先日の授業で、まぁ学生さんの夏の読書のおすすめとして、松本哉『貧乏人の逆襲』を紹介したのだった - まぁ夏だし、自由ってことで、この本けっこう面白いよ、まぁところどころ法に触れてるけどね、きみたちは法に触れるようなことをやっちゃいかんよ、まぁでも読む分には面白いからね、的な - けれど、そうそう、法政大学といえば『貧乏人の逆襲』でおなじみの松本哉、を産み出したすばらしい大学、なのだった。あわせて読むといいんじゃないかな。
『貧乏人の逆襲』面白すぎ。ただ授業で学生に薦めにくい。薦めたけどな。 - クリッピングとメモ