『電送人間』みた。ファックス的な? ていうか、「軍国キャバレー大本営」を見るために見るべしの一作。

電送人間  [東宝DVD名作セレクション]

電送人間 [東宝DVD名作セレクション]

  • 発売日: 2015/07/15
  • メディア: DVD
『ガス人間第1号』を見て『美女と液体人間』を見た者は『電送人間』を次に見るであろう…というわけで見た。なんだろう、人間を物体移動させる電送装置というのがあって、それで電送された男が、つぎつぎと復讐を果たしますよ、というおはなし。で、それだけなら、まぁ電送装置というのはSF的な道具立てだとしても、かりにそういうものがあったとしたらそれはそれで納得するとして、そうすると、ふつうの復讐連続殺人事件ということになる。電送というのはめずらしいとしても、まぁとても速い交通手段、みたいな理解の仕方はできなくはない。するとそこに、アリバイトリックのひとつでもないと、べつに電送どうでもいいじゃん、ということになりかねない(あれ?よく考えたら、電送装置って、ファックスみたいに、送り側と受け取り側の両方に装置がないといけないんだっけ?じゃあ、あのでかい装置を犯罪現場まで輸送するあいだに本人がスタスタ歩いて行った方が早くないか???)。ところで、この電送人間は、じつは戦時中に悪い仲間たちによって殺されたのである、と。それで悪いやつらは戦後になってもつるんで密輸かなんかして儲けている。それはよくないということで復讐をするよ、…ということになると電送以前のもんだいとして幽霊ということになる。そもそも幽霊は神出鬼没ではないのか、幽霊を電送するというとなんか摩訶不思議が二つ重なって渋滞してしまって結果あんまし怖くないんじゃないかという問題がうかぶ。しかしまぁ、余計なことを考えずに見ると、電送人間は青白く走査線が発光して怪奇みとSFみがあって悪くない。怪人然としたビジュアルである。前作に続いて白川由美がヒロイン役だが、ほとんど通りすがりの役みたいなかんじ。そんなことをいろいろ言っていると、本作、よくなかったのかというと、そうでもなくて、本作が作られた1960年というのはまだ戦後15年ということで、まだ戦争と地続きだったのかなあというのが感覚的に伝わってくる。それが、軍隊時代の認識票を送り付けられてそれが脅迫状になる、という挿話とか、悪いやつらが経営する「軍国キャバレー大本営」とか。いや、この軍国キャバレーの造形がたいへんによろしい。金粉ショーをやってたりするけど、ウエイターは軍服、ホステスは海兵服のミニスカ版、で、いちいち軍隊ふうの符丁で注文したりとか。

「軍国キャバレー大本営」について、感想ブログ的なやつのどっかで、コスプレみたいなことを書いていたかたがあり、うーんと思ったわけだが、やはり、1960年というのは、まだ戦争とまったく地続きだったというのを感じたので、「コスプレ」という言い方は違うかなあという気がする。主人公の鶴田浩二その人が、「特攻崩れ」として有名で - というのをねんのため調べたらWikipediaで、それは映画会社の宣伝も込みで、正確には「元大井海軍航空隊整備科予備士官」ってことで特攻隊を見送るほうだった、ということらしいんだが - 軍歌のレコードを出したりしていたわけだし、まぁ、ある年配の人たちは戦争に行ってたので軍歌とか懐かしくふつうに歌ってたりもしたわけで、まぁ軍隊で死線を越えた戦友のつながりが戦後も続いてたり、まぁこの映画もそういうはなしなわけなのだから、「軍国キャバレー大本営」とか、あってもおかしくないなあと思って見てた。それは「コスプレ」とか「メイド喫茶」みたいな感覚というより、もっと単純に軍隊でのあれこれを懐かしむ感覚が流れてるんじゃないかと思った。懐かしむっていうと語弊があるような気もするけれど、しかし、戦地に行って青春時代だったはずの日々を戦友と過ごして帰ってきた人たちがふつうだったわけでねえ。わたくしはもっとあとに生まれた人ではあるけれど、鶴田浩二が特攻崩れだという印象はあったし、軍歌を歌ってる人だという印象もあったですよ。