『匠の技法に学ぶ 実践・家族面接』。家族療法の3人のカウンセラーが三様のアプローチでケースを見る。動画もあっておもしろい。

このまえ読んだ(https://k-i-t.hatenablog.com/entry/2020/12/08/132330)『心理療法の交差点』セッションで、 暴れてたのは伊藤先生、影の主役だったのがユング派の田中先生、と見えたのだけれど、じつは興味をひかれたのはブリーフセラピーの若島先生で、なにか深みとはかんけいないところでメキシコのプロレスのようなトリッキーなかんじだなあと思って読んでみようと。それで、この本は帯の惹句に「3人のセラピストが同一事例に挑戦!」とある。家族療法の3人のカウンセラーが三者三様のアプローチで、ひとつのケースの家族面接ロールプレイをおこなう。あとがき的な解説にも出てきた、あの古典的な「グロリアと3人のセラピスト」とおなじかんじ。で、ひとりはレジェンド的らしい東というひとが「構造的アプローチ」を。つぎに家族療法のメッカの研究所でトレーナーをやってる水谷というひとが「ソリューションフォーカストアプローチ」を、そして若島という人が「MRIアプローチ」というの?(あとがき解説では「コミュニケーション派」と言われてるのかな?)を。で、出版社サイトには、セッションの動画も公開されている。
www.nippyo.co.jp
で、一人ずつのセッションを読んで・見て、それからすぐに振り返りの鼎談があって、セッションの種明かしとか、相互の感想とかがざっくばらんに語られる。でまぁ、読んでて面白いし勉強になる。読んで、それからとくに動画で見直したときにとにかく一番すごかったのは、やはり東という人で、「構造的アプローチ」による明確な狙いから、しっかりとした言葉、身体の向け方、目線、声色、表情、すべてを動員してぐいぐいとセッションを引っ張っていき、クライアントの家族の布置を組み替えていく。水谷という人は、一見すごく淡白で事務的、あるいは逆にちょっと言いすぎのところもあるかなあと見えたのだけれど、ふりかえりの鼎談を見ると、狙いとかポイントの置き方とかわかって、なるほどと。それで3人目の若島という人、前の本ではトリッキーだったなあと思いながらまずセッション動画を見たら、えらく挙動不審で冗談を滑りまくる、たよりない変な人というかんじで、あれ?これで成り立つのかいな?と思いつつ、しかし2か所ぐらい、あれ?これはわかってやってるのかな?というところもあって、そのあとふりかえりの鼎談を読んだらやはりへらへらした外見の下でいろいろ考えてやってるのだった。あたりまえだけど。で、気になってた2か所のところは、やはりどっちも意図的にやってて、舌を巻くところだった。これはなんなのか。しかし、もう一つ見ながら思ってたのは、こういういかにも頼りない感じというのは、じつは、卒論の学生さんがインタビューに行くときに必ず言うようなかんじに近いぞと。つまり、あまり賢そうな感じでグイグイとインタビューをするより、なんかちょっとたよりないかんじぐらいで、なるべく相手に安心して気持ちよーくしゃべってもらうほうが、いいインタビューになるよと。重要なポイントだけ逃さないようにしつつ、まぁちょっとアホみたいなかんじで「へえー、あ、そうなんですかぁ、え、あ、○○とかかと思ったんですけどそうでもないかんじなんですかねえ?」ぐらいにつっこめば、相手もガードを緩くして気持ちよくしゃべってくれるんちゃうかな、等々。でまぁ、たぶんこの若島という人も、まぁ初回面接ではこのぐらいの仕事をするぞというポイントを見切って、へらへらしながら、そこまではきちんと到着する、というやりかたなのかな、と思った。いや、やっぱりたんなる挙動不審のおじさんかもしれないのだけれど。ていうか、めちゃめちゃ洞察が鋭くて問題解決へのアクロバティックな切り口を見つける並外れた発想力を持つ一方で実際のコミュニケーションが悲しいほどキョドってしまう人、という可能性もあるか。
いずれにせよ、3人のセラピストのセッションをしっかり見れて、しかも振り返りのところでしっかり勉強になる(動画では圧倒的なセッションを見せていた東先生が、振り返りの中でほかの2人のセッションに率直な感想を述べたり、ある場面ではかなりの疑念を率直に表明したりしつつ、それが鼎談のやり取りをさらに深めて、クライアントの問題への見立てとか3人のセッションの見え方がぐるっと変わってくるところとか)。
ところで、家族療法というと、これまで自分的にあまりなじみがなくて、たぶん大昔に読んだ『カウンセリングの成功と失敗』という本で少し触れたぐらい。そのときは、ふうん、という感じだったけれど、いまけっこう認知行動療法とかうすっぺらい感じの心理療法が勢力をのばしてるわけで、その中で家族療法というのもひとつおもしろいかなあという気もしてくる。