で、内容はというと、まぁ最初の数章は理屈の説明で、医療人類学ってのがあるよとかエスノグラフィってのがあるよとかそういうはなし。そのあとはずっと、人類学者が参加したカンファレンスでの症例検討というテイで、症例の紹介と人類学者からの質問、それを受けての補足情報と、解説、というふうに書かれている。
目次の一部だけれど、
第II部 臨床症例/事例で学ぶ人類学・社会学
[1] 患者・家族の一見不可解な言動
04 月毎に入退院を繰り返す【1, 9+, 11+, 12, 14】
05 近隣住民とトラブルになり医療保護入院となった高齢女性【1, 4+, 14】
06 多くの生活困難を抱えこんだ患者【1, 5, 13+, 14】
07 「不定愁訴」を訴え続ける患者と向き合う【1, 5+, 9+, 13, 14】
・・・
[3]生殖医療・小児医療の現場から
12 生殖医療をめぐる治療の線引きとジェンダー【1, 4, 5, 6+, 14】
13 1型糖尿病男子の踊る注射【1, 4, 5, 6+, 14】
14 「障害」という診断をめぐる葛藤【1, 5+, 14】
・・・
というかんじで、まぁ、一つの章がみじかいのでエスノグラフィというほどではないけれど、このようにたくさんの章であれこれのケースをみると、たしかにお医者さんがかかわるケースには社会科学的な文脈がけっこうかかわってくるよなあというのも伝わる。
ところで、「解釈モデルと説明モデル」というコラムがおもしろかった。いま、医学生は実習を受けるための共通試験?の内容の中で「解釈モデル」ということばをかならず覚えるのだそうだ。患者さん側の、病気や医療に関する捉え方、みたいな意味で覚えるよと。ところでこの語は、医療人類学者クラインマンの「explanatory model」の訳で、クラインマンの訳書では「説明モデル」と訳されて、患者さん側だけでなくお医者さん側の捉え方も同様にそこに含まれてることになってるそうな。つまり、もともとの人類学的な議論ではお医者さん側の視点も相対化するような語だったのが、いまの医学生の勉強では患者さんの視点を相対化するような語として覚えらえれてるよ、という。へー。