通勤電車で読む『ビジネスパーソンのための「言語技術」超入門』。学生さんに勧めるというより、初年次教育担当者が読むとちょうどいいかもの新書。

「言語技術」というのが一般的な、言語の技術だよっということばではなくて、ある種の言語教育を念頭に置いた術語であるらしい、と知ったのは、田嶋幸三『「言語技術」が日本のサッカーを変える』を読んだとき(https://k-i-t.hatenablog.com/entry/20130523/p1)で、その後、テキストなんかもいくつか買って読んだりしてみて、学生さんにも勧めたりもしている( https://k-i-t.hatenablog.com/entry/20130716/p1 , https://k-i-t.hatenablog.com/entry/20150724/p1 )。で、ビジネスパーソン向けと称して新書になっているのを見かけたので読んでみた。新書なので、学生さんに勧められたらいいなあというのが念頭にあるわけだけれど、どうも読んだ感じから言うと、学生さんに勧めるというより、初年次教育担当者が読むとちょうどいいかも、ぐらいの本だと感じた。えーとつまり、学生さんに勧めたいというのは、学生さんが言語技術を身につけてくれたらいいなあ、というのが大きいわけで、そのいみでいうと、これ読んで言語技術が身につくというよりは、言語技術の考え方とトレーニングの仕方の例が書かれている。あたりまえだけれど、読んだだけで技術が身につくわけではないので、トレーニングをする必要があるわけである。まぁ、ことばというのはふだんから誰でもなんのきなしに使ってるわけで、だから、そもそも「言語技術」というものが存在するのだよ、その技術を持つと持たないとでは大違いなのだよ、それはちゃんとそのつもりでトレーニングすることで身につくよ、具体的にはこういうトレーニングだよ、ということを、ただ知るだけでも、まぁ技術上達の一歩にはなる、そのいみで、学生さんにこの本を勧めることで学生さんが言語技術を身につけてくれる、という狙いも、まったくの空振りにはならないだろうとは思う。ところで、もうひとつ、うちの学生さんというのは生涯学習支援の専門家になるための勉強をしているってわけで、つまり、トレーニングする側の知識技術を身につけることも勉強の目的になってくる。その意味では本書いいじゃないのということになりそうなもんなんだが、しかし、これはなんだってそうなのだけれど、1)Xに習熟することと2)Xを教えられるようになること、というのは、バランスが難しくて、まぁしかし1)があるていどできていないと2)はできないよね、というわけである。この本はそういうあれでいくと、2)に重心があって、つまり、「ビジネスパーソン」などという人種の人はなんだかんだいってあるていどのクオリティの文章読み書きを日常的にやってるしそういうニーズに囲まれて生きてるんじゃないか、そういう人たちに、日常の言語実践を、「言語技術」という視点から見直したり向上させたりするやり方を伝えているよ、みたいな趣旨のように見える。まぁそういうあれでいくと、だから、これまで「メロスはどんな気持ちだったかな」みたいな国語の授業を受けてきた(かどうかは知らんけど)学生さんの初年次教育の担当者が読むといいかなあという。
あと、自分的に面白くて使えそうだと思ったのでいうと、とくに絵画を説明するトレーニングが面白かったのだけれど、これじつは同じようなことを、他学部の文化人類学の先生の授業を見せていただいたときにやっておられて、すごくすごくおもしろかったおぼえがあって、あれやんと。その文化人類学の先生の、フィールドワークの訓練の授業で、ようするにフィールドを見る「目」、細部を見逃さずにひとつひとつていねいに言語化する力をやしなうということをやっておられて、まさにここでいう言語技術に相当することは、社会調査のトレーニングとしても役立つっていうか、これをまずみっちりするといいなあと思ったしだい。
あ、そういうわけで学生さんに勧める新書としては、上記の田嶋幸三(2007)『「言語技術」が日本のサッカーを変える』(光文社新書)をずっと推している。