おとなのメルヒェン。的場昭弘『マルクスだったらこう考える』

某日、数枚の図書券が手に入り、学校帰りに本屋に寄る。で、消費のために、いままでスルーしていた本を買ったのが、夏目房之介『マンガはなぜ面白いのか』と的場昭弘マルクスだったらこう考える』の2冊。

マルクスだったらこう考える (光文社新書)

マルクスだったらこう考える (光文社新書)

で、的場の本が面白かった。
たねもしかけもないマルクス主義の本で、現代の日本にマルクスがよみがえったらどう考えるか、ということをすなおに書いていて面白い。ソ連が崩壊してアメリカ一極のグローバリゼーションが加速度的に進んでこそ、マルクスの議論が有効になる、というのは、そらそうやね、というところ。
マルクスの言ってることの何がいいのかというと、たぶん、ファンタジーがあるところがええのだろうな、と思う。いまだに68年がどうこう言っているレフトアローンなシルバー世代の人たちがいるぐらいなもので、それはやはり、それだけの夢を見せるおもしろさというのがあったに相違ないんである。で、いま、そのファンタジーの部分が、どうも壊滅じょうたいにあって、まぁこのまえ選挙とかありましたが、人生いろいろ、議員もいろいろ、セレブが土下座したとか、フリーターが料亭に興奮したとか、そういうのがおもしろいということに、いま、なっていて、逆に、誠実が取り柄などといっていたところはおもしろくないので民意にウケず、なんだかちょっと、ファンタジーに欠けるなぁ、と思っていたところなんである。なんかほら、セレブが土下座するのが面白いとか、ドラマだとか、そういうのって、面白さの質として、インテリ向けってかんじじゃないですよね。ちょっと前なら固太りもあらわなTシャツ男がメディアを買収するとかしないとかいう話もあったし、まぁ、テロとの戦いだの十字軍だのといった米大統領発のお話もあったのだけれど、ちょっとねえ。インテリ向けってかんじじゃ、ないですよねぇ。ブッシュの顔とか。
なので、ごくふつうに、種も仕掛けもない(つまり、あまりけばけばしくポストモダンとか振り回さずに − まぁ、多少は下敷きにしているにせよ − スタンダードな)マルクス主義を現代の日本ですんなりと展開して、マルクスの理論をごくふつうに21世紀ヴァージョンに − つまり、マルクスがいま生きていたらたぶんそういうように − ヴァージョンアップするだけで、〈帝国〉の拡大に対抗するための納得のいく議論を展開できる、というのは、いいかんじである。おとなのメルヒェン、というところ。
まぁ、かんじんなところで、マルクスの(自分の)議論は数百年数千年のスパンで考えているので共産主義社会がたちまち実現するというわけではない、いまは理想論に見えても仕方ない、みたいな逃げを打ったりするんで、まぁ、よくもわるくも、この本読んですぐ革命、みたいなことにならないのだけれど。ま、そのへんが、よくもわるくも、メルヒェン、なわけですが。
まぁ、いいじゃないですか。いま見せられてるのよりまともなファンタジーが見てみたいわけですよ。