通勤電車でさくっと読んだ『ゼロからトースターを作ってみた結果』。

ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)

ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)

イギリスの芸大の大学院生かなんかが、なんかSF小説かなんかの一節にヒントを得て、パンを焼くトースターをその原材料からすべて自分で作る、というプロジェクトを卒業制作にしようと思いついて、まぁ実行しました、と。そうすると鉄は鉱山まで掘りに行かないといけない、雲母はどうする、銅はどうする、みたいなはなしになってくるのでイギリスのあちこちにでかけながら原料を調達することになるし、鉱石から鋼鉄を製錬するという作業もぜんぶ自前でしないといけない、みたいなことになるわけでその一部始終を例によってブログで公開しながらプロジェクトを進めていく、と、まぁ、いまふうの芸大生が思い付きでやりそうなことをやったわけで、それが面白くなるかどうかというのは作者(?)がどのぐらいどんな困難にぶつかって、それをうまくクリアしていくか、というところにあるんだろうし、まぁさほどおもしろいとはおもえないにせよその道のりが「現代産業社会の矛盾を逆照射する」ようなものになるぞというあたりに作者(?)のアートっぽい意図(?)があるんだろう、というわけなので、まぁそのへんがどのぐらいのものなのかお手並み拝見、と期待して読んでみたら、意外にあっさりしていて物足りない。なにより、作者の人が、ちょっと困難にであったらすぐにズルをするからで、鋼鉄の製錬でも手作業の製錬に失敗したらあっさり電子レンジでやってしまうし、プラスチックに至っては石油から生成することを早々にあきらめて、けっきょくなんだかんだ屁理屈をつけてそのへんに落ちてたプラスチックを原材料とみなして、それを溶かして型に入れただけ。それで「原材料から自作した」と言うのはずうずうしい。で、そのへんの一部始終とか屁理屈とかを、ブログ流の「軽妙な文体」でもってさらさら書いてお話は進み、鉄・雲母・プラスチック・銅・ニッケル(カナダの硬貨を溶かしてのばしただけ)、という5種類の素材はゲームのアイテム集めのように集まって、そうするとあっというまにトースターは出来上がり、そしてしかし、出来上がったトースターらしきものは、卒業研究のプレゼンには間に合ったものの、その後じっさいにこわごわ電気を通してみたらあっというまに電熱線が焼き切れてパン一枚焼けなかったということで、なんだそりゃ、である。ちょっとした陳腐な「社会批判っぽい」思い付き、安易な手抜き、ブログ流の「軽妙な」文体で能書きばっかし、それが「ネットで話題」みたいなことになって、という、まぁそれらをひとことでまとめるといまふうの本。まぁすぐ読めるのでそれはいい。