通勤電車で読む『スリップの技法』。本屋さんの日常的な仕事のANT的エスノグラフィーみたいのが読めるかと期待して(まぁ、可能性としてはあるかな)。

スリップの技法

スリップの技法

本屋さんの仕事の本を、気がつけばけっこう読んでいて、まぁどうせなら具体的な話のほうがおもしろいわけだけれど、この本は「スリップの技法」というぐらいで、本にはさんである書名とかが書いてある紙片(書店で買うとレジで抜き取られるけどAmazonとかだと付けたままになってるね)の使い方の具体的なワザにかんするもの。そうすると、期待としては、本屋さんの日常的な仕事のエスノグラフィーみたいなふうに読めないかと期待して、しかもそれが、スリップという紙片に印刷されたり書き込まれたりした情報が組織的に扱われることによって実践されている、みたいなことであれば、ちょっとしたアクターネットワーク理論が展開されるんじゃないかと、まぁ期待して、まぁ読んだ。著者の人は、もと書店の社員さんで、いまは「フリーの書店員」として本屋さんのプロデュースとか?研修とかをやっている人だと。で、今は本屋さんにはPOSシステムがあるけれど、やはり従来のスリップを活用することが重要ですよと主張しているわけで、スリップにいろいろ書き込んだり(いつ平積み展開していつ何冊売れたか、みたいな数字や記号を順次書き込んでいったり、いろんな気づいたことやキーワードや他のスタッフへの指示を書き込んだり)、スリップに書かれた情報を深読みしたりイメージを広げたりして、それを棚づくり(文脈棚、みたいな)とか平積み展開とか、「仕掛ける」だとか、棚から平積みに持って来たり平積みから棚に戻したり、攻めの発注をしたり、返品したり、まぁそういうことに使いますよと。まぁそのへんは、なるほどねと読む。で、実際の著者の人の書き込み入りのスリップの写真を例に豊富に挙げながら、それらがどう使えるか、を具体的に説明している。そのへんはまぁへえへえと思いながら読んでた。んだけれど、まぁ結論としては、そういう具体的な仕事のエスノグラフィーになりそうなところで、ちょっと観念的というか、たとえばこの本とこの本を併せて買った人がいるということはこういう文脈で展開するヒントになるのではないか、とか、そういう方向で書いているので、まぁこの本自体はANT的なエスノグラフィー、というわけにはなってないのだけれど、まぁ、そういう研究がありうるんじゃないかという可能性は感じた。この著者の人は、書店員としては、「仕掛ける」みたいなことをすごく重視しているみたいで、そういういわゆる「個性的」っぽい、「そういうタイプ」の本屋さんに見えた。なので、ここで言われている「スリップの技法」というのも、どっちかというとそういう、仕掛けのヒント、みたいな側面がかなり強調されていて、まぁそのぶん意識高めに、観念的になってたかんじはあるのだ。