奈良の「医療事故」の事件について、マスコミの報道と、医療現場の方々のブログでの議論。

先日、ここで紹介した新小児科医のつぶやきを見ているうちに、奈良で大きな事件が起こった。
で、報道はこんな感じ。

奈良の妊婦が死亡 19病院が転送拒否、6時間“放置”
2006年10月17日
 奈良県大淀町の町立大淀病院で今年8月、出産中の妊婦が意識不明の重体に陥り、受け入れ先の病院を探したが、同県立医大付属病院(同県橿原市)など19病院に「ベッドが満床」などと拒否されていたことがわかった。妊婦は約6時間後に約60キロ離れた大阪府吹田市の国立循環器病センターに搬送され、男児を出産したが、脳内出血のため8日後に死亡した。
 妊婦は、奈良県五條市に住んでいた高崎実香さん(32)。大淀病院によると、出産予定日の約1週間後の8月7日に入院した。主治医は高崎さんに分娩(ぶんべん)誘発剤を投与。高崎さんは8日午前0時ごろ頭痛を訴え、約15分後に意識を失った。
 主治医は分娩中にけいれんを起こす「子癇(しかん)」発作と判断、けいれんを和らげる薬を投与する一方、同日午前1時50分ごろ、同県の産婦人科拠点施設・県立医大付属病院に受け入れを依頼したが、断られたという。
 付属病院と大淀病院の医師らが大阪府内などの病院に受け入れを打診したが拒否が続き、国立循環器病センターが応じた。高崎さんは同センターに同日午前6時ごろ到着、脳内出血と診断され、緊急手術で男児を出産したが、8月16日に死亡した。男児は元気だという。
 大淀病院の横沢一二三事務局長は「脳内出血を子癇発作と間違ったことは担当医が認めている」と話した。搬送が遅れたことについては「人員不足などを抱える今の病院のシステムでは、このような対応はやむを得なかった。補償も視野に遺族と話していきたい」としている。
 実香さんの夫で会社員の晋輔さん(24)は「病院側は一生懸命やったと言うが、現場にいた家族はそうは感じていない」と話した。生まれた長男は奏太ちゃんと名付けられた。実香さんと2人で考えた名前だったという。

で、こういうのを見たり、テレビのニュースの「特集」なんてのを見ると、
「病院は無責任だねえ、この医者はゆるせんねえ、」
とかいう感想をいだいて、
「医者にもっと厳罰をあたえないと、アイツラはのうのうとしとるからなぁ、厳罰をあたえよ!!」
なんて感想をいだいたりするけれど、
まだチャンスはあるのだろうか - 新小児科医のつぶやき
こちらのブログを見ていると、マスコミ報道が煽ろうとしている医療叩きとは別の視点で、
医療の現場の議論をうかがうことができる。
ドラマやマンガの世界でなく、都市部の大学病院でもない小さな地方の病院で、限られた条件の中で現実的に最善の行動をとっていても、たとえば患者さんが不幸にして亡くなったら、医療訴訟とマスコミのバッシングの嵐にあってしまう。
マスコミなんかは特に、かなり方向付けをした報道をするし、煽りまくってバッシングする。
遺族のみなさんの心がかたづかんのはとてもわかるのだけれど、それを訴訟&マスコミのバッシングというかたちにして総力を挙げて医療を攻撃したら、結局のところ、医療のシステムじたいがもたなくなってくる。

なんか、一方で学校事件のことを思い浮かべつつ考えるんである。

「生徒評では人気者 いじめ誘発男性教諭『悪ふざけ多い』とも」

↑上のエントリの続きでこの記事を紹介するといかにもこの先生を弁護するように見えそうだけれど、そういうつもりは少ししかない。少しはあるけど、基本的には、この先生はアウトだろうなあという心証。でも、たぶんそれは紙一重なんだろう、にたようなきわどい橋を渡りながら先生稼業をやっている人は多いだろう、という心証もある。あと、マスコミはかさにかかってバッシングをするものだなあ、というふうにも思う。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20061017/eve_____sya_____004.shtml

生徒評では人気者
いじめ誘発男性教諭『悪ふざけ多い』とも
 福岡県筑前町の町立三輪中学校二年の男子生徒(13)がいじめを苦に自殺した問題で、生徒の一年時の担任でいじめを誘発する言動をした男性教諭(47)は、経験豊富な人気者と評される一方、悪ふざけも多かったと生徒は話す。
 関係者によると、男性教諭は同校に赴任して四年目。国語を担当し、サッカー部の顧問もしている。合谷智校長は「周りをまとめたり、引っ張る力にたけているので学年主任にした。学校行事の経験も豊富で改革力や企画力がある」と話す。
 生徒たちの評判も悪くなかった。三年生の女子生徒二人は「サッカー部の指導などで怒るときは怖いが、面白くて人気があった」と口をそろえる。小さな子が好きで、別の教諭の子どもをかわいがる姿が印象に残っているという。
 一方、別の女子生徒は「口が悪いところがあって、よくふざけていた。そこが人気でもあったが、言われる方は傷つくと思う」。
 自殺した生徒を「偽善者」と呼んだり、生徒をイチゴの品種に例えて序列化し、保護者から中止を求められたり。学校側の調査では、度が過ぎた教諭の言動は、約一年半前の一年生の一学期が中心だったという。
 合谷校長は「自殺の直接原因は、その後の生徒によるいじめである可能性が大きい」と話し、慎重に調べる姿勢だが「(教諭は)いじめの引き金をひいた。言動がなければ自殺はなかった」と、男子生徒の両親の怒りは収まらない。
■同級生が校長に「いじめ」を報告 生徒の父明かす
 福岡県筑前町の町立三輪中学校二年の男子生徒(13)がいじめを苦に自殺した問題で、父親(40)が十七日、男子生徒へのいじめについて詳しく知っている同級生が校長にいじめの実態を話していることを明らかにした。
 父親によると、十六日夜に訪れた合谷智校長に「同級生がすべてを校長先生に話していますね」と尋ねると、合谷校長はその事実を認めた上で「まだ調査をしているので、詳しく判明すればお伝えする」と回答した。
 両親もその同級生からどのようないじめがあったか詳しく聞いているという。
 福岡県警朝倉署も遺族や教諭、同級生らから事情を聴くなどして生徒が自殺に至った詳しい経緯の調べを始めた。
 同署は学校での生徒の様子について学校や同級生から話を聴いたり、生徒の両親から提供を受けた生徒の携帯電話に残ったメールを分析。いじめの実態把握を進め、自殺にどのようにつながったかを調べる。
 一方学校側は十六日に全校生徒を対象に、今後、教職員に期待することを聞く無記名のアンケートを実施。アンケート自体は男子生徒の両親が希望したものだったが、父親は「先生の悪いところ、先生がいじめをやっているかを聞いてほしかった。内容がお願いしていたものと違う」と憤った。

別の記事。同じ材料からちょっととずつちがう書き方をしている。

http://www.nikkansports.com/general/p-gn-tp0-20061018-105152.html
福岡いじめ自殺、担任悪ふざけ多かった
 福岡県筑前町の町立三輪中学校2年の男子生徒(13)がいじめを苦に自殺した問題で、1年時の担任でいじめを誘発する言動をした男性教諭(47)は、経験豊富だが、悪ふざけが多かったという。男性教諭は同中に赴任して4年目。国語を担当し、サッカー部の顧問をしている。
 合谷智校長は「周りをまとめ、引っ張る力にたけているので学年主任にした。学校行事の経験も豊富で改革力や企画力がある」と話し、生徒たちの評判も悪くなかった。3年生の女子生徒は「サッカー部の指導などで怒るときは怖いが、面白くて人気があった」。一方、別の女子生徒は「口が悪いところがあり、よくふざけていた。そこが人気でもあったが、言われる方は傷つくと思う」と話した。
 男性教諭は
 (1)騎馬戦の練習中、転落した男子生徒が大事を取って腕にギプスを巻いたものの、骨折などの異常がなく外したところ「ウソだったんだな」とからかった。
 (2)クラスの生徒を成績に応じ、イチゴの品種になぞって序列化。優秀な生徒は「あまおう」「とよのか」と呼び、成績の悪い生徒を「出荷できないイチゴ」と呼んだ。
 (3)男子生徒が自宅で見ていたネットの内容を相談したところ、相談内容を同級生に暴露した。
 (4)男子生徒が級友の消しゴムを拾ったところ「君は偽善者だ」と言った。
 (5)女子生徒に「太っているので豚」と言った
−ことなどが分かっている。
 合谷校長は「自殺の直接原因は、その後の生徒によるいじめである可能性が大きい」と話し、慎重に調べる姿勢だが、男子生徒の両親「(男性教諭は)いじめの引き金をひいた。言動がなければ自殺はなかった」としている。
[2006年10月18日7時58分 紙面から]

底の浅いつまらん人気取りではある。好きなタイプではないです。
でも、じゃあ他の先生たちはどうだったかというと、結局、この先生の「指導力」にたよってたところはあるんじゃないか。
げんに生徒からの人気だってあったわけで(中学生というのは、まぁ集団としてみれば、底の浅いもんである)、たまたま取材した女子生徒のうちひとりが「言われる方は傷つくと思う」と言い添えているのを、大きく取り上げている。
ふたつの記事の前者は「生徒評では人気者」という見出し、後者は「担任悪ふざけ多かった」という見出し。

なんか「いじめ問題」がまた再燃しそうな空気でもあるのだけれど、
今回のが以前のと同じなのか違うのかを見ていきたい。
たとえば、なぜ「いじめた生徒」に対する非難がなくて、教師に非難が集中するのか、とか。
なんか、
「いじめ問題」が「不適格教師問題」の枠に落とし込まれていくような予感もあるけれど、それはまだ無責任な予言に過ぎないですが。

「教委の権限強化検討へ いじめ問題受け規制改革会議で」・・・「教委の権限強化」の内容にちゅうい。

↑とかいっていたら、たとえばこういう記事。
http://benesse.jp/news/asahicom/TKY200610200424.html

06.10.21 10:25
教委の権限強化検討へ いじめ問題受け規制改革会議で
 佐田規制改革担当相は、政府の規制改革・民間開放推進会議草刈隆郎議長に対し、教育委員会の権限・機能の強化に向けた検討に着手するよう求めた。佐田氏は、北海道と福岡県で起きた児童・生徒のいじめ自殺問題で教育委員会の対応が不十分だったとの考えから、20日の閣僚懇談会でも関係閣僚に理解を求めた。「教育再生」を最重要課題に掲げる安倍首相も教育委員会の活性化に取り組む意向で、首相直属の教育再生会議でも検討課題になる見通しだ。
 これまで推進会議は、教育委員会制度について「硬直化した文科行政の上意下達システム」などと批判し、教委の権限を首長に移すために設置義務の撤廃を主張。それを実現する構造改革特区の導入も検討した。だが、教育委員会の廃止につながると危機感を強めた自民党文教族文科省の反発を受け、スポーツなど一部の事務のみを首長に移譲する「妥協案」で決着した経緯がある。
 これに対し、佐田氏は20日の閣議後の記者会見で「いじめ自殺が社会問題化している」としたうえで、「責任ある教育のためには、教育委員会をしっかりしないといけない。責任をもった教育委員会を確立していかなければならない」と強調した。「教育委員長や(事務局トップの)教育長の権限が非常にあいまいになっている」とも指摘した。
 佐田氏の草刈氏に対する今回の要請により、これまで教委の権限を弱める方向の改革を進めてきた推進会議が方針を転換させる可能性がある。
 一方、安倍首相も今月5日の衆院予算委員会で「地方における教育の担い手は、やはり教育委員会だ」と述べ、「教育委員会制度の活性化に資するように改革を進めたい」と答弁した。
 18日に開かれた教育再生会議の初会合でも、委員を兼務する義家弘介担当室長が「教育委員会の改革も必要だ」と提起している。

「いじめ問題」なら「いじめ問題」は、たんにいじめが問題だと言っているってだけではなくて、
むしろ、
なんか事件が起こったのを足がかりにして、わあーっと言説が組み立てられていって、それによっていっきにシステムの歯車が動く、
みたいなことだと思う。
「教委の権限強化」の内容にちゅういしてみていくこと。

「学校教育、ウチが引き受ける」 文科相、主導権を強調

http://www.asahi.com/politics/update/1020/014.html

「学校教育、ウチが引き受ける」 文科相、主導権を強調
2006年10月20日23時25分
 安倍首相の肝いりで首相官邸に設置された「教育再生会議」(野依良治座長)と文科省の役割分担について、伊吹文部科学相は20日、学校教育をめぐるテーマはあくまでも文科省が主導権を握る姿勢を強調した。
 この日開かれた衆院文部科学委員会で答弁に立った伊吹文科相は、家庭や地域社会の教育力を復権するには(1)地方の親の働き場所を確保するための公共事業や工場誘致(2)超過勤務手当を大幅に増額して同勤務をさせにくくし、都市部の親が早く帰宅できるようにするような労働法制の検討――の議論が必要と指摘。そのうえで、「再生会議はむしろそういう大局的な議論をしていただきたい」と語った。
 一方で、文科相は、再生会議がこれから打ち出す報告や提言の中で中心を占めることになる学校教育をめぐる分野は「すべて我が省が引き受ける。(文科相の諮問機関である)中央教育審議会の意見を広く聞いて、いろいろな価値観の中から結論を出していただく」と述べた。この分野については、文科省でもう一度議論した上で、結論を決めるという方針を示したものだ。
 これは、小渕〜森内閣の「教育改革国民会議」の例を踏襲したとも言える。同会議が提言した「大学の9月入学の積極的推進」などは、文科省の審議会で議論されたが、本格的には導入されなかった。
 また、文科相は「教育は市場経済で決まる効率や利潤を超えた価値を扱っている。義務教育に市場原理が入ってくるのは感心しない」と語り、教育分野に競争原理を持ち込もうとしている政府の規制改革・民間開放推進会議の動きも牽制(けんせい)した。

こっちはこっちで綱引き。