「論理的思考力を養う 情報吟味、言葉選び時間をかける大切さ」(教育:YOMIURI ONLINE)ってなぁ。読売新聞が教材っていうが、新聞記事が非論理的じゃんなぁ。宣伝の意図がにおうな。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20071215ur01.htm

論理的思考力を養う 情報吟味、言葉選び時間をかける大切さ
 授業の最初に新聞記事のコピーが配られた。つい1か月ほど前、文部科学省がまとめた、いじめに関する全国調査。前年度の約6倍の12万5000件にもなった理由や、ネットによるいじめなど、最近のいじめの特徴を分析した読売新聞の記事だった。
 東京都立桜修館中等教育学校(東京都目黒区)の「国語で論理を学ぶ」という授業は、「数学で論理を学ぶ」と交代で、1週間おきに2時間続きにして行われている。導入時に新聞記事が使われることが多い。複数の新聞記事を読み比べることもある。
 「論理的思考力を養う」ということを特色に掲げ、同校が開校したのは2年前だ。その1期生の授業を見学する機会を得た。
 いじめにかかわる記事に対しては、「最近のネットいじめの内容」を記事から読み取り、「気付いたことや自分の意見・感想」を作業シートに書き込み、グループで議論した上で発表させた。
 後半は、コミュニケーションの授業に移った。学校での日常的な会話を想定して、「どうすれば、自分の主張を伝えながら相手に配慮した答え方ができるか」を実体験した。
 経済協力開発機構OECD)による国際学習到達度調査(PISA)で、また日本の15歳の学力低下が報じられたばかりだが、桜修館の取り組む論理的思考力の育成は、この調査結果と密接に関連している。
 新聞を使った「読み」の授業は、「情報を取り出し、解釈し、熟考・評価する」というPISAの読解力を身につけさせることにつながる。言葉を大切に選ぶという後半の授業は、実生活での言葉の活用力を磨くことになる。
 ちなみに、別のクラスの「数学で論理を学ぶ」ではこの日、「多角形の対角線の本数」というものの規則性について考える授業などが展開されていた。こうした教材は教員のアイデア次第で決まる。生徒からは、教師も想定していなかった解き方も飛び出すこともある。
 同校では、6年間で、すべての生徒が「論文」を書ける力をつけるレベルにまで持っていく方針でいる。
 数学では、すでにテストの点数にも成果が表れているという。数学に比べて国語は成果を示しにくいが、「うちの子供たちは、ほかの学校に比べてじっくり考える経験をしている。将来が楽しみだ」と石坂康倫校長は自信を見せる。
 インターネットで、とりあえずの答えが簡単に出る時代だからこそ、子供たちに考える時間を与える必要がある。考えるトレーニングは、時代の要請とも言えるだろう。桜修館のような授業がもっと広がっていいと思った。(中西茂)
(2007年12月15日 読売新聞)

って、ちょっと待てと。
教材が、「いじめに関する全国調査」の記事だと。それはかなりきわどいセレクションである(はれ。 - クリッピングとメモ)。
読売の当該記事が具体的にどれかわからないけれど、たとえば

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20071116ur01.htm?from=goo
いじめ把握6倍12万件…昨年度、文科省調査
 2006年度に全国の小中高校が把握したいじめの件数は約12万5000件に上ることが15日、文部科学省の調査でわかった。調査対象を拡大したり、いじめの定義を変えたりした影響で、前年度の約6倍になった。
小中高校「ネット利用」4900件
 いじめを受けていた児童・生徒の自殺も6件確認された。一方、インターネットの掲示板に悪口を書き込むなど、ネットを利用したいじめが約4900件あったことも初めて判明した。
 文科省は、調査対象をこれまでの「公立校のみ」から、「国立、私立を含むすべての学校」に広げ、都道府県教委を通じて、いじめの件数を報告させた。また、いじめの実態を幅広く把握するため、定義を「一方的、継続的に攻撃され、深刻な苦痛を受けたケース」から、原則的に「いじめを受けたと子供が感じたケース」に変更した。
 その結果、いじめの総数は、05年度の2万143件から12万4898件に急増。内訳は小学校6万897件、中学校5万1310件、高校1万2307件、養護学校など(現在の特別支援学校)で384件だった。いじめが確認された学校は、小学校では全体の48%、中学校では71%、高校は59%を占めていた。
 1997年度から05年度まで0件か1件だった「いじめ自殺」は、06年度は中学生5件、高校生1件の計6件になった。
 また、今回初めて、「パソコンや携帯電話での誹謗(ひぼう)中傷」によるいじめが何件あるかを調べたところ、小学校で466件、中学校2691件、高校1699件、特別支援学校で27件の計4883件が確認された。
 具体的には、「女子生徒がインターネット掲示板に合成写真を掲載された」「同級生を無視するよう書いたメールが次々と転送される」などのケースが、文科省に報告されている。
(2007年11月16日 読売新聞)

この記事だとして、
これを論理的に読もうとすると、
「前年度の6倍」になったのは、いじめの「把握」であって、実数についての言明ではないはず。

2006年度に全国の小中高校が把握したいじめの件数は約12万5000件に上ることが15日、文部科学省の調査でわかった。
調査対象を拡大したり、いじめの定義を変えたりした影響で、前年度の約6倍になった

というのは、かなりきわどい文章である。
とくに第二文。主語がない。ひょっとしたら意図的に、主語を省いてある。
主語を書くとすれば、第一文の主語である「・・・小中高校が把握したいじめの件数」だろう。
それはつまり、「把握」のことを指しているのか「いじめの件数」のことを指しているのか。
つまり、第二文の前半によって、調査対象を拡大したりいじめの定義を変えたりした影響ってことで、「把握」と「件数」のつながりの乖離に言及しているはずなので、「・・・小中高校が把握したいじめの件数」という言い回しはとても微妙な揺らぎを含んでしまうはず。なのにそれを主語にして、しかも(姑息にも)字面から省略して、そして「前年度の約6倍になった」と書くことで、印象として、実数としてのいじめ「件数」が「前年度の6倍」になったと受け取られることを狙っているようにみえるのである。
なので、
こういう類の記事の文章をもとに、「「国語で論理を学ぶ」という授業」などやって、

 いじめにかかわる記事に対しては、「最近のネットいじめの内容」を記事から読み取り、「気付いたことや自分の意見・感想」を作業シートに書き込み、グループで議論した上で発表させた。
 後半は、コミュニケーションの授業に移った。学校での日常的な会話を想定して、「どうすれば、自分の主張を伝えながら相手に配慮した答え方ができるか」を実体験した。

なんてことをやるのは、それじたいかなり非論理的になりそう。
いや、中学生たちが新聞記事の非論理性を − 参観している読売の記者の前で − あげつらうというのならそれもおもしろいだろう。しかし、どうやら、授業では、かなり非論理的かつ誘導的に、「「最近のネットいじめの内容」を記事から読み取」らせて、「後半は、コミュニケーションの授業に移った」というのだから、まんいち気の利いたことを生徒が言おうとしても教師が非論理的かつ強圧的に封殺したんだろうなと想像はつく。
ま、おかげで、こうやって学校宣伝の記事を教育欄に特集してもらえたわけである。
「東京都立桜修館中等教育学校」というのは、新設の都立中高一貫進学校のようなものであるらしい。
東京都立桜修館中等教育学校 - Wikipedia
ゆかいな記事ではないなぁ。まぁ、学校の取り組みじたいは、きっと悪くないのだろうとは思うのだけれど。