子どもを守るのは、一過性ではない「継続的な」地域力(Benesse教育情報ブログ-Benesse教育情報サイト)

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子どもを守るのは、一過性ではない「継続的な」地域力
2005/12/15 14:00:00 【教育動向】
この1か月、わずかな間に幼い子どもが犠牲となる痛ましい事件が相次いで起きました。登下校時の安全について不安が広がるなか、学校だけ、保護者だけの努力では、もはや子どもたちを守ることが難しくなっています。そんな現状から、地域の住民が協力し合って防犯活動に取り組もうとする機運が高まり始めました。
最近の犯罪は「低年齢化」「残酷」―― 04年内閣府調査より
2004年に内閣府が行なった世論調査のひとつに、「治安に関する世論調査」があります。世界の国々で最も安全と言われたわが国の神話が揺らぎだしている、と考えた政府が、治安に関する国民の意識を調査して今後の参考にしようと実施したものです。
この調査結果によると、「ここ10年間で日本の治安はよくなったと思うか」という設問に、「悪くなった」「どちらかといえば悪くなった」と答えた人は86.6%にのぼりました。また「最近の犯罪はどのような傾向があると思うか」については、「低年齢化」81.8%、「残酷化」66.1%、「動機が単純」58.1%、「高齢者や子どもを狙ったものが多い」52.6%、となっています【図1】。
【図1 最近の犯罪はどのような傾向があると思うか】 ※ 複数回答
内閣府 治安に関する世論調査」より
このように、最近の犯罪増加に対して国民が不安感を強く持ち始めるなか、先の登下校時の児童を襲った痛ましい事件が起きました。
すでに多くのメディアが報じているように、求められるのは何よりも家庭や地域、学校の防犯体制を強化することですが、自治体の取り組みに温度差が見られるのが現状です。
国が、地域が、動き出した
そんななか、東京都品川区では、子どもを守るために地域ぐるみで行なう防犯への取り組み「近隣セキュリティ・システム」を始めました【図2】。
品川区では、区内小学校の全児童に対して、防犯ブザーに替わる手のひらサイズの小型通信機「まもるっち」を配っています。子どもはこれを携帯し、緊急時に発信機のボタンを押すと、ブザー音が鳴るとともに居場所が特定されて、近くの人や「生活安全サポート隊」と呼ばれる警察官OBが駆けつける仕組みです。
【図2 品川区が開始した「近隣セキュリティ・システム」】
品川区ホームページより(転載許諾済み)
この"SOS信号"を受け取るのは、あらかじめ善意で登録している地域の人たちです。地区町会などを通じて参加をつのり、11月末時点ですでに11,290人の登録があるそうです。子どもを守ろうとする地域の協力があってこそ成り立つ仕組みといえます。
品川区の地域活動課生活安全担当者のお話では、「このシステムがあるからといって、100パーセント子どもたちを守れるわけではありません。大切なことは、こうした取り組みを通じて住民の皆さん一人ひとりが『子どもは自分たちで守る』という意識を持つこと。それも、一時的にではなく継続的に、です。防犯への意識づけや取り組みを地域一丸となって続けていくことが、犯罪を遠ざける大きな力になるはずです」と、この活動を一過性のものに終わらせず、続けていくことが重要だと説明しています。
国も対策に乗り出しました。文部科学省では登下校時における安全確保対策を取りまとめ、全国の教育委員会などを通じて対策を講じるよう要請しました。たとえば、定期的あるいは必要に応じて通学路を点検することや「通学路安全マップ」を作って児童にもそれを周知徹底させること、ボランティアの方々の協力を得て、あいさつや声がけをしながら幼児児童生徒の登下校を見守ることなどが盛り込まれています。また警察庁などとも連携して、学校の安全対策に取り組むとしています。
国が、地域が、動きだしています。防犯に向けたさまざまな制度づくりや教育を通じた実際の働きかけが必要なことは言うまでもありませんが、その取り組みが行政、学校、保護者だけといった、それぞれの手の届く範囲だけでは、もはや子どもを守れません。
完全な対処法を講じることは一筋縄ではいかないはずですが、安心・安全な地域社会を作り出していけるかどうかは、犯罪を防ぐ「抑止力」をいかに地域が持つか、にかかっているのではないでしょうか。この「抑止力」は、住民であり国民の一人である私たちの「危機意識」の総和です。自分のまちを守ろうとする一人ひとりの意識と行動を再考するときです。――未来からの贈りものである子どもたちを守るために。