隠される:情報デモクラシー’06年春/3 学校現場「遠足の写真にぼかし」

ちょうどいまこの辺のことでどうしようかと考えているところなのでタイムリー。
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/news/20060401ddm012010009000c.html

隠される:情報デモクラシー’06年春/3 学校現場
 ◇遠足の写真にぼかし

 「うちの子がしかられているのを、他のクラスの子まで聞いていたんですよ。個人情報保護法上、問題があるんじゃないですか」

 昨年7月、大阪府内の市立小学校に男子児童の母親から電話が入った。子供が学校で厳しく指導されたことを、同級生の母親から耳打ちされたという。

 この児童は数人の児童と休み時間に教室で、ほうきを手に野球に興じているうち、扉の窓ガラスにぶつかり、ガラスが割れて床に散乱した。教諭が教室に駆け込んだ時、何人かの児童は後片付けをしていたが、この児童は遊び続けていた。教諭は放課後、児童らを集めて注意したが、この児童へは声も大きくなり、廊下にいた別のクラスの児童にも聞こえたという。

 学校から相談を受けた府教委の担当職員はつぶやいた。「法律が独り歩きして、個人情報『過保護』法ではないか、と思うこともある」

   ◆   ◆

 「ばれたら、しかられるんですが……」。東京都心部の区立小学校の男性教諭(52)が手帳のすき間から、小さく折りたたんだ紙を取り出した。「いざという時はこれがないと。他の先生もやっているはずです」。縮小コピーしたクラス名簿で、教え子36人の住所や電話番号が書かれている。

 学校では数年前から、クラス名簿を鍵のかかるロッカーで一括保管するようになった。クラスの連絡網はあるが、名前と電話番号だけで住所はない。「子供同士の年賀状の交換は減ったでしょうね」と教諭は言う。

 この学校はインターネット上のホームページ作りに力を入れ、ボランティア活動や遠足など学校行事の写真を公開している。だが、写っているのは児童の背中や後頭部ばかり。正面から写した顔は「ぼかし」をかけている。「子供たちの目はキラキラ輝いていました」「汗びっしょりです」といった写真説明との落差が異様な印象を与える。

 毎年4月、新入生の保護者に「お子さまの顔の写った写真を使うことに、同意する・同意しない」というアンケート用紙を配る。「同意しない」は約1割に上るという。

   ◆   ◆

 「卒業アルバムの顔写真掲載を断った保護者はいるかね」。今年2月末、大分市内の小学校の校長(59)が教頭に声をかけた。教頭が首を横に振ると、ほっとした表情を浮かべた。

 大分市教委は昨年4月、「個人情報の保護」を理由に、小中学校の卒業アルバムの顔写真掲載で保護者の同意を得ることを決めた。校長は「卒業アルバムは児童の記録。親の同意が得られなければ、貴重な記録が消えてしまう」と話す。

   ◆   ◆

 昨年4月の個人情報保護法の全面施行に伴い、学校現場に広がる「過剰反応」に対し、文部科学省は今年2月、対応策をまとめた。クラス名簿や緊急連絡網を作成・配布する場合、事前に保護者らから同意を得れば従来通り可能で、得られなくても同意した児童・生徒の分だけで作成できるとの考えを示した。

 東京都内の小学校教諭(41)は言う。「個人情報保護法は『他人のことなど知るか』という風潮を正当化するようなもの。法律で匿名化をあおっておいて、そんな対応策で歯止めなどかかるはずがない」=つづく(次回は4月4日に掲載の予定です)