しばらく寅さんは一段落かと思っていたけれど、やはり未録画のものはちょいちょいあるね。というわけで見たけれど、これはよかった。
嵐寛寿郎が四国は
大須五万石の殿様の役で、町の人たちからは敬われながら大きな屋敷に執事と二人で寂しく住んでいるところに寅さんが関わってきて、というおはなし。この
嵐寛寿郎の殿様が、世間離れした感じ、背筋の伸びた感じ、格の違う存在感の感じがあって、だからこの世知辛い世ではちぐはぐになってしまう感じ、そして、かつて結婚を許さず勘当した息子がその後亡くなってしまったことを後悔しながらひっそりと暮らしていたところに寅さんが現れたことで、ふいに、息子が残した妻、かつて結婚を許さなかった
マリコという女に会いたい、会って息子の思い出を語り明かしたいのだ、という望みを切々と寅さんに訴えたりして、そして思い余ってとうとう、古色蒼然とした帽子をかぶったいでたちで柴又のとらやの店先に出現する。こういうはなしはもうまったくもって泣かせるわけである。マドンナ役は
真野響子で、まぁもちろん魅力的ではあるけれど、それよりも
嵐寛寿郎のほうが魅力を放っている。殿様が、顔を覆ってしくしく、さめざめと泣くのである。