観て損のない国策山岳メロドラマ『新しき土』

昭和12年の、日独合作のプロパガンダ映画。
もう少し短くてつまんない単なる国策映画かとおもったら、100分以上の作品で、それが長いとは思わせないとはいわないけれど、いろんないみで面白かった。学生に見せたい。
http://www.jmdb.ne.jp/1937/bm000630.htm

新しき土 [DVD]

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amazonの紹介。

内容紹介
16歳の原節子がういういしい幻の名作がDVD化。日本側共同監督は伊丹万作、撮影強力に円谷英二

内容(「DVD NAVIGATOR」データベースより)
山岳映画で知られるA・ファンクに見初められ、日本初の国際女優となった15歳時の原節子主演による貴重な作品。旧家へ来た養子の輝雄が、恋人を連れて欧州留学から帰郷。しかし輝雄を義理の兄としてではなく、恋心で見つめる光子は複雑な心境でいた。

いやじっさい、日独合作映画のドイツ版なので余計にそう編集してあるのかもしれないけれど、おはなしの最初のあたりはずっと日本を舞台にした観光映画のごとくにすすみ、横浜から東京に到着したはずの主人公が目にしたビルのネオンが「阪神電車」だったり、富士山の近くに住んでいると思っていた原節子がどう見ても宮島を庭代わりにしていたり、富士山がぐつぐつと噴火していたり、けっこうつっこみどころもありそうなのだけれどそのへんはぜんぶスルーしながら見ていると、二枚目とはとうてい思えない早川雪舟が、欧米流の個人主義と、日本のイエ制度っていうか決められた結婚というのと、のはざまで苦悩する、みたいなチャラい話だったのだけれど、原節子がさすがにかわいくて(いやじっさい、原節子ってけっこうガタイがいいので、あまり好きではないのだけれど、さすがに15才ぐらいだと、ちょっとかわいいんである。てっきり20歳すぎと思いながら見ていたのだが、まぁ、当時の結婚年齢ということも勘案するとそうでもないのか)、しかしなにより驚きうれしかったのはいきなり市川春代が登場したことで、早川雪舟の実の妹役で、いまは工場で働いていて、明るく朗らかできびきびと、歌を歌いながらくるくると働いている姿がとても心弾むんである。出ると知らなかったので、繊維工場で機械を操っていた娘たちのうちの一人がやおらポケットから手紙を出して、「お兄様が帰ってくるわ!」とか弾んだ声で言うので、その声いっぱつで市川とわかって、この映画が好きになった。日本料理屋に兄と入るシーンの、手の添え方の感じとか、お酌をするところのにこにこした感じとか、らしくてよかった。はつらつと口笛を吹きながら顔面から耳の穴にまで泡石鹸をつけまくって洗顔、というシーンはあんまりではあったのだけれど、それもふくめて、市川春代がみれてよかった。
とかいっているうちに、長台詞やらナレーションやらで、国家神道とか、和魂洋才とか、家族国家と天皇制とか、血と大地とか、近代と伝統とか、神風とか、なんかそういうたぐいのプロパガンダが絵に描いたように説明されて、すごいすごい、とこれまた面白がっていると、
なんかしらないうちに物語りはクライマックスでメロドラマになり、まぁこの映画の中では日本は地震国で火山国なので、日本の女性は物静かに見えつつ内面には火山のごとき激しさと強さを持つとかなんとかいうことになっていて、だから、いいなずけの早川雪舟にじゃけんにされたりすると、日本の女性である原節子は、火山に身を投げるのだ、ということになっていて、花嫁衣裳を唐草模様の風呂敷に包みもった原節子は、じっさい、なんだかよくわからない火山に登り始めるんである。で、なんかよくわからないあいだに、なぜか早川雪舟も裸足で噴火山を登って追いかけていて、アンソニー・マンのごとき山岳映画に・・・と思っていたら、いまamazonのレビューを見たらじっさいにこの監督は山岳映画を得意とする人だったのね・・・まぁとにかく、そういうことになり、ついに山頂で、いままさに花嫁衣裳を羽織って火口へ身を投ぜんとする原節子に、早川雪舟が追いついて抱きとめ、そこで火山が大爆発、あれよあれよ、みたいな・・・あとは説明に窮する・・・
いやまぁ、見て損はない。おもしろかった。