国立教育政策研究所による小・中学生の学力調査

小4〜中3の全国学力調査 日常使わぬ漢字不得意
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20060715ur04.htm

 文部科学省国立教育政策研究所は14日、全国の小学4年生から中学3年生を対象に実施した国語と算数・数学の学力調査結果を発表した。

 ◆論理的思考も苦手

 国語では、「挙手」を正しく読めた小4の割合が約17%にとどまるなど、各学年とも極端に正答率の低い漢字があることが分かった。作文や数学的な考え方を問う問題では、物事を筋道立てて考える「論理的思考」が不得意という傾向も出ており、“ゆとり教育世代”の苦手分野が浮かび上がった。

 調査は全国から抽出した国公私立の小・中学生計約3万7000人が対象。「確かな学力」の育成を求めた中央教育審議会の2003年答申を踏まえ、昨年1、2月に漢字の読み書きと作文(国語)、計算力と数学的考え方(算数・数学)に絞った初のテストを実施した。

 それによると、漢字の読み書きの平均正答率は、小・中学生とも各学年で60〜80%台。小6で出題された「さんそ(酸素)」の書きは正答率約87%、中3の「けんぽう(憲法)」の書きも約88%に上るなど、他教科の学習でよく目に触れる漢字は正答率が高かった。

 これに対し、日常生活などで使う機会が少ない漢字には、正答率が極めて低いものがあり、「改行」の読みは小4で正答率約19%だった。「子孫」(小4)を「こまご」と読んだり、「ふるって(奮って)」(中3)を「奪って」と書いたりする誤答も多かった。

 作文では、決められた分量を書く力はあるものの、文章が明確になるよう段落で区切ったり、主張に一貫性を持たせたりする力が不十分なことが判明した。

 一方、算数・数学では、「平行四辺形や三角形の面積の求め方を使って、台形の面積を求める問題」の正答率が低く、発展的に考える力に課題が浮かんだ。また、「3+2×4」の計算問題は小6の正答率が約58%しかなく、かけ算とわり算をたし算とひき算よりも先に行うという法則が十分に理解されていない実態も明らかになった。

(2006年7月15日 読売新聞)

関連。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20060715ur01.htm
[解説]3万7000人学力調査に見る課題
 文章書く力なお弱点…国語

 記憶中心、応用きかず…算数数学

 文部科学省国立教育政策研究所が、全国の小学4年生から中学3年生まで計約3万7000人を対象に実施した学力調査結果からは、日本の子どもたちの「読み書き・計算力」に、いくつもの克服すべき課題が見つかった。

 ■国 語

 小6では「往復」を「住復」と書き、中2でも「相違」を「そうちがい」と読んでしまう。漢字の読み書きでは、形が似た字と誤ったり、音と訓を取り違えたりする子どもが多かった。また、中3では文脈から本来は「承認」と書くところを、意味を考えずに「証人」と誤った事例もみられた。日常生活で使う機会の少ない漢字については、何も答えない「無解答」が40%を超えたケースもあった。

 学力調査と同時に実施したアンケート調査によると、家庭で漢字練習をしている子どもの割合は、小4では全体の約60%いるのに、中3では23%に低下していた。漢字の指導方法について、国立教育政策研究所は「形式的に反復練習させるだけでなく、文章中で取り上げて関心を高める工夫などが必要」と指摘する。

 一方、小学生には「テレビの見方」、中学生には「言葉の使い方」をテーマに、自分の考えを作文にまとめさせたところ、身近なテーマ設定だったこともあり、全体の約9割が決められた分量(小学生は400〜600字、中学生は600〜800字)を書き上げた。しかし、自分の考えが明確になるよう段落を構成できていた小4は約32%にとどまり、論の運び方に一貫性のある文章を書くことができた中1は約56%だった。

 文章を書く力は2004年12月に公表された経済協力開発機構OECD)の国際学力調査(略称PISA)の結果でも、日本の子どもの弱点として浮上しており、課題は依然、克服されていない。

 今回の結果について、丹羽健夫・河合塾文化教育研究所主任研究員は「自分で論理的に考えるという力が養われていない」と分析。国立教育政策研究所は、読書の重要性とともに「日記や観察文など、様々な形で書くことに慣れさせる指導が文章力のアップには欠かせない」と訴える。

 ■算数・数学

 算数・数学では、数学的に考える力や計算力が身についているかが焦点だった。

 一辺のおはじきの数が4個の正方形の図を示し、おはじきの数(計12個)の計算方法を提示したうえで、「一辺のおはじきが6個だった場合の計算式をたずねる問題」(小4〜小6)では、小4でも約6割が正しく答えた。ところが、おはじきを100個とした設問では、小4の正答率は約3割まで低下。「規則性を見いだし、計算式を考え出す力」に課題があることが判明した。

 また、「底が階段状の水槽に水を入れ、満水になるまでの時間と水面の高さの関係を示すグラフを選ぶ問題」(中1〜中3)では、水槽の形にとらわれて、階段状のグラフを選んでしまった生徒が各学年で約23%〜約43%もいた。日常生活の出来事を数学を通じて考えることが苦手な子どもの姿が浮かびあがる。

 一方で、「8+0・5×2」(小5)の計算問題では正答率が約62%にとどまったが、これを「8リットルの水が入った水槽に、0・5リットルの水を2杯入れた。全体の水の量は」という設問にすると、正答率が約73%にアップした。足し算よりも掛け算を先に行うという法則の理解は不十分だが、具体的な場面を設定してやると、正しい答えにたどりついており、日常生活と関連づけた指導が今後、有効策になることを示唆している。

 丹羽研究員は、算数・数学の力について、「解答を導く方法を表面的に覚え込むことが、日常の学習の中心になっているため、子どもたちは本質的な理解が不十分で、応用がきかない」と見る。そして、「学校現場では今後、児童生徒が算数・数学に興味を持つような題材を研究し、体系的な知識が身につくような授業を実践する必要がある」と提言している。

(2006年7月15日 読売新聞)

関連。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20060715ur02.htm
日本の子供の学力低下
 ◆国際調査に危機感…文科省

 「読み書き・計算」に焦点を絞った今回の学力調査は、中央教育審議会文部科学相の諮問機関)が2003年10月の答申で提唱した。

 その前年には、学校週5日制の完全実施に伴って、学ぶ内容を削減した新学習指導要領が小・中学校に導入された。この“ゆとり教育”を巡り、教育関係者から「このままでは学力が低下するのではないか」と批判が出ていた。

 04年末に公表された国際学力調査結果では、日本の子どもの「読解力」が8位から14位に落ち込み、1位だった「数学的応用力」も6位に順位を下げた。文科省は「我が国の学力は、世界トップレベルとは言えない」と認め、これを機に、学習指導要領の抜本的な見直しに着手した。現在も国語や算数・数学、理科などの授業時間数を増やす方向で検討を続けている。来年度には小6と中3の全児童生徒計約240万人を対象にした「全国学力テスト」を行うことも予定している。

 国立教育政策研究所は今後、今回の学力調査の結果を中教審に提出し、現場の教員らにも指導改善を求める。文科省も結果を吟味したうえで、学習指導要領の改訂や全国学力テストの問題作成に生かすことが求められる。

(2006年7月15日 読売新聞)

関連。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20060715ur03.htm
小・中学生学力調査 「現場の実感と同じ」
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 ◆授業時間不足 教師悲鳴も

 普段使うことの少ない漢字の読み書きは苦手で、論理的な思考力にも乏しい――。文部科学省国立教育政策研究所が14日公表した小・中学生の学力調査の結果について、現場の教師からは「予想通り」との声が出る一方、「指導改善をするにも、授業時間が足りない」との悲鳴も上がった。

 「現場の実感と同じで、特に驚きはない」。東京都大田区立蒲田中で国語を教える平川恒美教諭(46)はそう語る。短い言葉をやりとりする携帯電話のメールの普及や活字離れなどから、中学生の「言葉を使う力」や「文章を書く力」が著しく低下していると思っていたからだ。

 新しく勉強する漢字を一覧表にしたプリントを配ったり、文化祭や運動会の後に報告文を書かせたりしているが、「授業時間数の削減で指導に十分な時間を割けないのが悩み」という。

 今回の学力調査と並行して行われた教師向けのアンケート調査によると、漢字の読み書きの力を高めるため、小テストを繰り返し実施している教師は、小4で86・9%、中1で75・0%に上り、教育現場では様々な努力をしていることもうかがえる。

 「挙手」や「改行」など日常生活であまり使わない漢字の読みが極端にできなかったという調査結果に、杉並区立大宮小の千葉一成教諭(37)は「挙手なら『手を挙げる』、改行なら『行をかえる』という具合に、授業で簡単な表現にしてしまっていることも原因では」と考える。そして、「今後、授業で意識して難しい言葉も使うようにしたい」と話す。

 「論理的に答えを導く問題に触れることが少ないので、生徒は解答するのに苦労したのではないか」。そう指摘するのは、渋谷区立本町中で数学を担当する中西知真紀教諭(55)。“ゆとり教育”で授業時間数が減り、「教育現場では、生徒に公式や文字式を覚えさせるだけの授業が多くなっているのではないか」と指摘している。

 数学的な考え方を身に着けさせるため、葛飾区立葛飾小の早藤基代孝教諭(45)は、教師が最初から教えるのではなく、児童に考えさせる授業を心掛けているという。「成果は少しずつ出ており、算数の楽しさが分かるような指導を続けたい」と意欲を見せた。

(2006年7月15日 読売新聞)