通勤電車で斜め読みする『文章力の基本』。 

以前ここで欲しいと書いていた(http://d.hatena.ne.jp/k-i-t/20091022#p1)本がいまごろ手に入って、通勤電車で斜め読み。

文章力の基本

文章力の基本

社会人向けの本だけれど、基本的には、たとえば大学の初年次の作文教育なんかで使えるテキスト、みたいなノリ。著者もそういう、ビジネス出身でいま大学で作文教育を担当している人。
なので、これ、じっくり授業のテキストとして使う、というのであれば、いい本だと思う。「てにおは」や句読点の使い方から文章構成まで(っていうか、「てにおは」や句読点のレッスンにいくまでにもかなりある)、ていねいにまとめてある。
のだけれど、例えばわたくし的なニーズとしては、学生がレポートや卒論を書くのに「これ読んどけ」みたいなふうなことで、そうすると、この本は読み物としてみると、学生さんにとってはとくに、ちょっと退屈かも。
この本は、ひとつひとつのポイントについて例文をあげて原文→改善、というふうに並べて説明する、という形式になっていて、その例文が、いかにも学生さんが書きそうな(ついでにいうとブログの文章で私がこうやって書いているような)変な文で、それをいちいち直すわけだから、まぁ身につまされて面白いのだけれど、たぶん学生さんたちにそういう陰気な面白さが共有されうるかというと、どうかなと思わなくはない。

原文「アメリカから出した手紙は、友達の中でA君1人だった。」

改善「アメリカから手紙を出した友達は、A君1人だった。」

とか

原文「豪邸や世界旅行や超高級車を買いまくるなど、贅沢の限りを尽くしていた。」

改善「豪邸や超高級車を買いまくり、世界旅行をするなど、贅沢の限りを尽くしていた。」

とか

原文「映画によってときには考えさせられ、ときには新しいことを教えてくれた。」

改善「映画によってときには考えさせられ、ときには新しいことを学ぶことができた。」

とか

原文「私は、最近テレビを見ていて疑問を持つことがある。そのことをこれから述べていこうと思う。」

改善「私は、最近テレビを見ていて疑問を持つことがある。」(二文目は不要)

とかね。
まぁ、もちろんそのとおりなのだし、そう教育すべきだし、そのように作文できてなければまともな文章と扱ってもらえないのだけれど、でもねえ、学生さんたちは「原文」が気持ち悪くて「改善」がすっきりしているという生理的な感覚を持ってないんじゃないかなあ。べつにこれでいいじゃん、わかるじゃんみたいな。じっさいわたくしのこの文章にしてからがそういうノリで書いてるわけだし。そこんところを、「いやいや、それでは社会では相手にされないのだ」と押し付けないといけないわけで、それが教育ってもんなのだけれど、それやるのやっぱし大変で、何か他の授業の片手間とか卒論指導の片手間とかで「これ読んどけ」だけではできないだろなあ、と。
というわけで、作文教育で本気で使うならいい本だけれど、これはこれでなかなか使えないかなあ、という気もした。
それはそれとして、この本、さっきいったように、例文が妙に学生の作文っぽくリアルで身につまされておもしろい。「あるある」的な陰気な面白さはあるし、ときどきほんとに笑える。
あと、この本を読んだあとで別の本を読むと、無性に添削したくなって困るってのもある。
あと、自分がここで書く文章が書きにくくなるかというと、そこはまぁ平気で悪文を書くわけだけれど。