薬師院&薬師院『公共図書館が消滅する日』。よかった。『ひまわり号』とあわせて読む本。

公共図書館が消滅する日

公共図書館が消滅する日

大学の時に、必修科目にたしか図書館学概論があって、2回生のときにとってたんだが、たしか担当の先生は森先生というお名前だったと思うのだけれど、たしかその授業の期末レポートは8000字以上とかで、学生が各自のテーマで書くんだったような覚えがある。それで、たしか授業内で発表するみたいなこともあったかなんかで、そのとき3回生に編入してきた教育社会学コースの先輩が、なぜか図書館における知の分類をフーコーで分析するみたいな、そのとき図書館学概論を受けていた自分には完全によくわからんけど圧倒的に印象的なことをやっていて(あるいは特に面白そうなものを先生が授業内で紹介してたのかもしれない)、それが薬師院さんだったわけである。ちなみにわたくしはそのとき「電子図書館」についてレポートをまとめた覚えがある。それはそれなりにじぶんなりに現在につながってるような気もするけどそれはおいておくとする。
それで月日は流れて、先日ふと、また薬師院さんの新刊が出てないかなと思って調べていたら、出てたので、読んだ。
著者名が、「薬師院仁志・薬師院はるみ」となっていて、薬師院はるみ氏は図書館学がご専門というのは以前から知ってた。なので、著者名を見て、ふむ、共著かあ、だとすると、図書館学の専門論文と社会学の論文が組み合わさって並んでるのかなあ、と予想して読んだら、予想に反して、がっつりとした日本図書館史で、しかもがっつりとした社会学的な日本図書館思想史(デュルケームの『フランス教育思想史』が社会学的なフランス教育思想史であるようないみで)だった。しかも、全編、いつもの薬師院さんの文体で、しかも内容はがっつりと図書館学、しかも言説の歴史というか、作られた神話による日本図書館史をじっくり腰を据えて読み直す、みたいな、これ、どういう共同作業で実現したのかというぐらいの完全な共著である。まいった。
で、内容はというと、じつは去年の今頃じぶんは出張のおともに『移動図書館ひまわり号』を読んですごくよかったと感激していたのだが、
出張のおともは『KING JIM ヒット文具を生み続ける独創のセオリー』『歩いて読みとく地域デザイン』『移動図書館ひまわり号』。『ひまわり号』がよかった。 - クリッピングとメモ
その日野図書館の実践を神話化しながら成立している日本図書館史を、読み直す、で、そこでつくられて維持されているストーリーが見えなくしてしまっている迷走やその結果の最終的な帰結 - つまり「公共図書館が消滅する日」ということになるだろうか - を浮かび上がらせている。『ひまわり号』はエモくて感動的な本だし、たとえばウナギトラベル(https://k-i-t.hatenablog.com/entry/20141204/p1)にも感激したひととして、図書館のぬいぐるみお泊り会なんかの実践もいいなあと思うし、生涯教育の卒論で図書館サービスをテーマにする学生さんとも、そんなことでもりあがったりしていたわけだが、なるほどその文脈というのをみるべしだったのである。
あと、まぁ薬師院さんの文体でもあるけれど、語られた言説の断片を皮肉っぽくアクセントをちょっとずつずらしつつ引用しながら別の絵柄を浮かび上がらせるのが、金井美恵子のエッセイとか『文章教室』とかに近いものを感じさせる。
この本、図書館界からの反応は気になるな。

Amazonのコメントはいま2つあって、図書館関係のひとらしいけどどちらも評価してるね。
あと、感想を書いたブログ記事やTweetもみつかる。
栄光の公共図書館史は偽史だった(いつもよりちょい長) - 29Lib 分館
2020年7月10日 「公共図書館が消滅する日」 薬師院仁志・薬師院はるみ : おいらとJazzと探偵小説(ミステリ)と You and the Jazz and the Mystery