通勤電車で読む『現場で使える教育社会学』。力のこもった教職教科書。「教育格差」を柱にするという選択、「現場」を基準にするという選択。

まずはこれ、なまなかでない力のこもった教科書。編者の先生方がテーマ、全体および各章の構成、執筆陣、そして執筆とブラッシュアップのプロセスまでを完全にコントロールして、研究会形式の討議と専門家による査読、さらに教育現場で活動している現役の教師や教職を目指す大学生、大学院生、研究者があつまった公開編集会議を「祝祭的なイベント」として企画し、しかしそれがコロナ禍によりZoomによる長丁場の連続開催、全8日のべ560人参加のオンライン編集会議となり、それらを踏まえて最終的に練り上げられたのがこの教科書である、ということで、その経緯が「はじめに」において、まず相当の熱量で紹介されている。もう「はじめに」を読んだ時点で参りましたと言いたくなる充実の300頁超え。
でまぁ、「はじめに」だけ読んでまいっていても仕方ないのでもう少し内容を言うと、これ、サブタイトルにあるように、「教育格差」を一つの柱にして15章を構成している。もう、教職の教育社会学で勉強すべきは「教育格差」だ!という割り切った選択、これがまたこの教科書の特色なわけである。ほかの教育社会学の教科書で扱うような内容、教師論とかクラスルーム研究とか青少年の逸脱とか学歴社会論とかジェンダーとか多文化社会とか特活・部活とか不登校・いじめとかが、すべて「教育格差」という切り口でデータを丁寧に示しながら説明されまとめられてる。もう、これがとにかく本書の特徴である。
さてそして本書の特徴は、というと、タイトルに謳われてる通り、「現場で使える」を強力に意識した作りになってる。「格差」というのは現象であって、端的な事実であるわけです。格差があるよというのはデータで示せるし「現場」に伝えることができる。ほらこのとおり格差があるでしょう、というのは極めて説得的である。そして各章の説明が一通りすんだところで、「現場のためのQ&A」というコーナーが毎回設けられていて、かならずまず「この章の知識は、学校現場でどのように役立てることができるのでしょうか」というクエスチョンに答えるところから始まる。徹底している。そのあとに、「演習課題」コーナーがあり、さらに「理解を深めるために」として参考文献とか映画とかが挙げられている。徹底している。
というわけで、ぎっちりと力のこもった完成度の高い教科書なのである。そうだな、地方国立教育大・教員養成学部とか私立でもかなり教員採用のパイプの太そうな(?)、がっつりと教職を勉強してかならず教員になるぞ、という学生さんたちの教職の授業で使うといちばんイメージぴったりというかんじ。