『楳図かずお恐怖劇場 蟲たちの家』みた。

黒沢清ということで。51分の中編。回想(というのかフラッシュバックというのか)を多用して、ぼーっと見てると現在時点がどこかがわからなくなる(ので見直した)。そういうことをすると物語がトントン進行するのが妨げられて時間が停滞してしまうのだけれど、本作は、だからそういうおはなし。西島秀俊緒川たまきが夫婦で、一軒家に住んでる。緒川たまきが従弟の青年に助けを求める。西島秀俊は猜疑心が強く暴力をふるい自分を家に閉じ込める等々。いっぽう西島秀俊は後輩女子に緒川たまきの様子がおかしい、妄想的だ、家に来て見てほしいと言う。この時点でつまり、西島目線と緒川目線で異なる現実(ないし妄想)が描かれることになる。同じ(あるいは少しずつ違う)シーンが繰り返し回想され、なにが現実なのか妄想なのか(誰の妄想なのか)よくわからなくなる。緒川たまきは虫になって急な階段を上がった二階の部屋から出てこなくなってしまうが、その妄想に西島秀俊も加担しているようにも見える。
『映画のこわい話』に本作をめぐって楳図かずおとの対談が収録されている。見終わってから読み返してみると、ふつうにちゃんと指摘すべき点を指摘している。撮影時に本当に降った雪のシーンのこと。蝶のこと。撮影を行った家屋のこと(空間の広さとそこで起こるドラマの広がりについて、漫画と映画との条件の違いについて)、俳優について(なんでもない人を演じるのがうまい西島秀俊と、緒川たまきの非現実性の対照のバランスでこの作品の世界を描けないか等々)、そして結局のところこの物語はいったいなんなのかということについて。