岩館真理子と岡野玲子

岩館真理子を買ってきて読んだ。シリアスな『キララのキ』とラブコメの『アマリリス』の両方がすごい。

アマリリス 2 (YOUNG YOUコミックス)

アマリリス 2 (YOUNG YOUコミックス)

それにしても、『キララのキ』、ふくざつで幻想的でミステリアスで重層的な長篇の物語を、雑誌の連載で描いていたというのが驚異的だなぁ。こんな緊密&重層的な物語は、描くほうも読むほうも、毎月だか隔月だかではわけわかんなくなるだろうに。
いっぽうの『アマリリス』は今も雑誌で連載が続いているようなのだけれど、力の抜けたラブコメ、のようでいて、なんか渡部直己が喜んで分析するようなタイポグラフィとか心内語の使用とか話者の不意の転換とかのテクニックを駆使した作品。大塚英志だったかが、少女マンガがフキダシ外の文字を多様に使い分けることで「内面」表現を発見した、という分析をやっていて、岩館真理子はその例に挙げられていたような気がするけれど、それとも組み合わせて読むとおもしろいかも。
戦後まんがの表現空間―記号的身体の呪縛

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レトリックス―大衆文芸技術論

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読者生成論―汎フロイディスム批評序説 (〈昭和〉のクリティック)

読者生成論―汎フロイディスム批評序説 (〈昭和〉のクリティック)

恋愛メロドラマって、要するに、本人どうし以外の全員(作者&登場人物&読者)が当人どうしの気持ちを知っているのに本人どうしだけがわかってなくてすれ違う、という仕掛けになっているわけで、そこのところそのものをネタにすると、メタフィクション的なラブコメになる、ということかしらん。
ちょうど金井美恵子にたとえると『キララのキ』が『柔らかい土をふんで、』で『アマリリス』が目白もの、という感じ。どちらもすばらしい。
で、
ついでに買っていた、以前から気になっていた岡野玲子『両国花錦闘士』も、読んだのだけれど、これはもともとが89年ぐらいの作品で、やはり十数年のタイムラグというのを、いちいち頭の中で変換しながら読まないといけなかったのがざんねんだった(主人公のライバル力士が少女マンガばかり読んでいて、それが紡木たくで、とかそういうパロディというのは、やはり、古びてしまうなあ)し、あと、連載との相性が悪かったのかもしれなくて、話がみょうに散漫だったり、さいご投げっぱなしで終わったりということもあったような気がする。内容的には、岡野玲子ならではの美意識がかっこいい作品だったのだけれど。