「これってホメことば?」という歌が間違っていてけしからんという話を今さら。

もう放送は9月いっぱいで終わりらしいのだけれどむかつくので。
みんなのうた」の曲で、
Youtubeだと
http://www.youtube.com/watch?v=yap0odwltr0&mode=related&search=

http://journal.mycom.co.jp/news/2006/09/21/365.html

最近中高年のブロガー達の間で、みんなのうた「これってホメことば?」が話題を集めている。
 
これってホメことば? これってホメことば? ホントにホメことば?
新入社員とカラオケ行った
十八番(おはこ)の演歌を歌ったら……
「課長、なにげに歌うまいっすね!」
これってホメことば? それってホメことば?
聞いたら、「なにげに」は「けっこう」の意味
なにげに勉強になりました
 
(NHKみんなのうた「これってホメことば?」より)
このように、「なにげに」という言葉の受け取り方の違いをおじさんの立場で表現した歌だ。ちなみに2コーラス目は、20歳の娘が言った寿司の感想「フツーにおいしい」の「フツー」とは「わりと」の意味であったという発見を歌っている。

いうまでもなく
「なにげに」は「けっこう」の意味、ではない。「フツー」は「わりと」の意味、ではない。
そうやって語と語とを一対一対応させて逐語的に翻訳できる、という発想そのものがまちがっている。
「なにげに」っていうのは、「なにげなく」の変形だとすると、「ことさらひけらかしたり、いかにもそれらしくみえたりしないけれど」というぐらいの意味で、つまり、
「通常であれば、歌がうまい人は(とくに中年で上司ともなると)わざとらしくひけらかすとか、あるいはいかにもそれらしいふうを最初から見せていて、それはそれで厭味だしうっとおしいのだけれど、そういう押し付けがましいところがなく、あるいは押し付けがましくないために目立たなくさえあるのだけれど、それでも聴けばわかるぐらいに、・・・歌がうまいですね」という程度の意味なのだろうと思う。
つまり、語と語を逐語的に翻訳する、というより、「なにげに」という言葉はあるひとつのコンテクスト全体を引き連れて用いられているのだ、と理解する方がいいのだと思う。
「フツーにおいしい」というのもおなじことで、
つまり、「おいしいものをおいしいという場合に、とかく、ことさら大げさに感激して見せるとか、お上手を言って見せるとか、あるいは逆にひねりを効かせて表現するとか、なんらかのオチをつけるとか、ちょっとうまいことをいうとか、そういう作為的な表現というのが多いし、それは食べる方ばかりでなく食べさせる方にもそういうこけおどしやら作為やらというものがとかくまぎれこみがちであるのだけれど、・・・この寿司はそういうひねりも作為もなにもことさら必要なくごくナチュラルに、おいしい」といった程度の意味合いだと思う。これも、「とかく・・・なりがち」というコンテクストを下敷きにしたうえで「ふつうに」と言っているんである。
二つの語は、だから、いずれも、いってみればテレビ的なと言ってもいいような作為性が日常的コミュニケーションのデフォルトになってしまっているという事態の中で敢えてナチュラルに相手を褒めることの困難の中で産み出された表現なのだといえると思う。
中年の上司だの親だのが、「部長は歌がお上手で!!」とか「この煮アナゴは絶品だねえ!大将いい仕事してる!!」とか恥ずかしげもなく言い散らしているその言語感覚のほうが、よほど無批判にテレビ的なのであって、
だから、
「聞いたら、「なにげに」は「けっこう」の意味 なにげに勉強になりました」
などと言って密かに「若者」の揚げ足を取っているつもりになっている中年とかアナウンサーとかは救い難いわけだし、
逐語訳的な言語感覚の人たちと、コンテクストを繊細に探り当てたりずらしたりしながら言葉を用いている人たちとでは、
まともにコミュニケーションが成立するはずもないんである。
と思う。