京大大学院、廃校に“学びの共同体”

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20061130ur02.htm

京都大学大学院教育学研究科では今年から、京都府南山城村の旧小学校校舎を生涯学習の拠点として活用し始めた。研究対象として地域をとらえるのではなく、住民と連携し、地域づくりに参加しながら学ぶという、新しい教育実践の場を目指している。
 拠点となっているのは、三重、奈良、滋賀の3県に接する同村北部、標高約500メートルの高原にある、旧野殿童仙房小学校。今年3月、小学校の統廃合によって廃校となった。
 学校の跡地利用を模索する住民から同研究科の前平泰志教授(57)(生涯教育学)が相談を受けたことをきっかけに、同研究科の「理論・実践融合型による教育学の研究者養成」のフィールドとして活用することを提案。両者の協力が実現した。
 6月には、京大と同村の野殿、童仙房両地区の住民とで作る生涯学習推進委員会が発足。行政主導型ではなく、住民が主体的にかかわり、農業体験や地域の問題を考えるセミナーなどを京大の学生と一緒に開催するなど、誰もが参加できる学びの場作りを模索している。
 村内に限ることなく、都市部など地域外との交流も積極的に行う方針で、8月に開かれたセミナーには、京大関係者や住民のほか、韓国・梨花女子大学の教員や学生も参加。生涯学習のあり方などを論じあった。
 農業体験では、地域内の畑で、農家から指導を受けながら、地域の子供たちが中心となって、大根やブロッコリー、キャベツなどの種まきから収穫までを行った。秋の村の祭典では、とれた野菜を販売し、地元の人たちから好評を得た。
 月1〜2回、同地区を訪れている同研究科の博士後期課程在学中の安川由貴子さん(27)は「机の上で学ぶ理論ももちろん大切ですが、地域の人たちの中に入って一緒に行う活動は、ライブ感覚があって、とてもやりがいがあります」と、充実感を口にする。
 『風と雲の便り』と題した広報誌の発行も始め、前平教授が編集を手がける。創刊号では、茶畑が広がる地域の写真を表紙に、発足の経緯を詳述。今後は活動内容を紹介していく予定だ。
 編集者として働いた後、Iターンした内藤浩哉さん(42)も広報活動を後押しする。「地域の良さをアピールしつつ、学生さんたちに、ここでの体験を研究に役立ててもらえれば」と話す。
 前平教授は「子供から高齢者まで、あらゆる人が参加する“学びの共同体”を作りたい」と意気込む。大学が、地域と直接かかわりつつ、学生の育成を目指す取り組みは、地域住民の間に着実に広まっている。(泉田友紀)
(2006年11月30日 読売新聞)