『ベッカー先生の論文教室』。やはりよかった。泣ける!!

ベッカー先生の論文教室

ベッカー先生の論文教室

この本、この前みつけて(http://d.hatena.ne.jp/k-i-t/20120531#p1)入手してようやく読んだ。やはり『Writing for Social Scientists』の翻訳だったけれど、2007年の新版を底本にしている。1986年の初版に、いくらかの書き足しがある。とくにコンピューターを使う部分と、それから特に「むすび」の部分(旧版の記述を残しつつ、旧版への注釈と新しい記述とをあらたに付け加えるという形なので、たぶん旧版の内容そのものは新版の中にそのまま保存されてるはず)。あたらしいほうの「むすび」では、研究者をとりまく環境の業績至上主義化、権威のある学術雑誌が業績作りのためのメディアということにすっかりなってしまって、より硬直化してきた傾向、そのたそのたについて、あいかわらずグッとくることを書いてくれている。
ところで、この本はだから、旧版のほうが
論文の技法 (講談社学術文庫)

論文の技法 (講談社学術文庫)

として邦訳されているのだった。
そしてしかし、この本の中にはそのことが − 旧版邦訳書の存在そのものが − ひとことも、訳者あとがきの中にも文献リストの中にもひとことも、たぶん載っていなかった。黙殺である。もちろん、新版は旧版の内容をそのまま保存しているので文献リストの中に旧版が入るわけはないし、だとすればその邦訳書を示す必要もない。また、訳者あとがきでも「本書は・・・2nd.editionの完訳である」とさえ書けば、底本をちゃんと示しているわけだし、原書旧版と新版は別物なのだから、旧版邦訳は新版邦訳とは無関係、たとえば「この本にはすでにすぐれた邦訳があり参考にさせていただいて云々」みたいなことを書く義理も、ない、という理屈もあるようなのだ・・・
けどたぶん、訳者の人は耽々と、この本の訳し直しの機会をうかがっていてそれを実現させたのだろうと思う。その気持ちにとても共感する。
Amazonの書影には帯が写っていないけれど、帯にはこうある。

悩める書き手に贈る 希望の書
20年以上にわたって アメリカで読みつがれるベストセラー

泣ける!!

そして帯の背の部分には

悩める書き手へ
泣ける!!

とある。
というわけで、
ようやく、ベッカーのこの本で救われたことへの感謝の念を持った訳者によって訳された、いい本。