『信じない人のための〈法華経〉講座』。中村という人の宗教入門新書を読むシリーズ一段落。法華経のテキスト紹介。

信じない人のための「法華経」講座 (文春新書)

信じない人のための「法華経」講座 (文春新書)

通勤電車で中村という人の宗教入門新書を読むシリーズ一段落。これまで読んだのは、宗教全般とか、仏教全般とか、けっこう概説的な話だったので、まぁ何冊か読むとけっこう重なる話の繰り返しだったのだけれど、これは各論っていうか法華経に絞ったおはなし。法華経がどんなテキストなのか、という紹介と、どういう背景で成立してどういう影響を与えたのか、というおはなし。でまぁ、語り口がざっくばらんなので面白く読めた。
法華経というのは、なにしろいろいろな大乗の経典がそれぞれマニアックにアカデミックに知識人好みの哲学とか理論とかを展開しているのに対して、どんぶり勘定というかなんというか、総合的というか、そういう書かれ方をしているんだそうで、どっちかというと「文学的」というか、読者を感情移入させて巻き込んでいくようなテキストであると。
帯に引用された本文文章にいわく、

法華経の得意とするのは、むしろSFX的スペクタクルを伴う、スピード感ある演劇的テクニックです。漸進的にプロットが大仕掛けになっていって、壮大な場面転換があって、お釈迦様が超人化されて、この法華経自体の信仰の決意を読者に迫って、読者をケムに巻いて終わり!
これは付き合っていて決して面白くないものではありません。けっこうな迫力がある。しかし、読み終わってみると、あれよあれよと繰り出されるヴィジョンになんだかたぶらかされたような気もします。よく考えてみると、何を言っているのかよくわからない。なんでも仏教の諸説が総合されたようだが、さてそれが何だったかというと自信がなくなる。

でもって、「もっと言えば、法華経の読者は、自己啓発セミナーに金を払って(もとを取るつもりで)自己マインドコントロールに励むのと同じ気持ちで接するのでなければ、そのレトリックの妙味を味わうことができないのです。」だそうで、まぁそういうテキストとしてどのように成り立っているのかを読むとおもしろいと。
あと、個人的には、法華経の一部をなす観音経の「救済の論理」を救い出すときの口調にはぐっときた。そういうもんであろう。

というわけで、中村という人の宗教入門の新書本、何冊か読んでみて、総じてよかったけれど、まぁ学生さんに1冊すすめるなら、意外と『損得でくらべる宗教入門』(http://d.hatena.ne.jp/k-i-t/20161203#p1)あたりかなあと思った。