『ダゲレオタイプの女』。黒沢清のフランス映画は温室の数分間が黒沢清してた。

ダゲレオタイプの女[DVD]

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フランスに行ってフランス人のキャストでフランス人のスタッフで撮ったら黒沢清の映画になるか。とりあえずフランス映画に見えた。さいしょのうちは、黒沢清的な道具立て(たとえば、銀板写真のモデルの姿勢を固定する大げさな器具は『ドレミファ娘』や『ドッペルゲンガー』や『CURE』に出てきた車椅子的な装置を思わせるし、がらんとした地下室の写真のスタジオはいつものような廃墟っぽい倉庫っぽい空間ではある)はフランス映画っぽい雰囲気の中に完全に溶け込んでしまってる。で、1時間ぐらいはごくごくふつうのフランス映画だなあというかんじですすむ。でまぁ幽霊がふうっと現れたりヒロインが階段落ちしたり暗闇からぼうっと現れたり、ちょっとそういうシーンがでてくるのだけれど、まぁやってるなってかんじで、ただ、温室のシーンで一挙に非常にぐっときた(特典映像のメイキングでもこのシーンの撮影現場をとりあげてた)。半透明のビニールのカーテンそのものも出てくるけど、屋敷の庭の古びた温室のガラスが半透明になってて、そのガラス越しに幽霊の顔がふうっと近づいて来る、おびえた写真家が後ずさりして倒れこむところに段ボールやごみ袋の山ではなく何かビニール袋的なものの山があってどさっと崩れ、そして『回路』の幽霊のようにゆっくりと不自然な足取りで幽霊が近づいてくる、絶妙にぼやけたピントで画面いっぱいに幽霊の顔が覆ってくる。この数分のシーンは非常に黒沢清してた。あと、後半ちんけな犯罪映画になり、人が簡単に死ぬところもまぁ黒沢感があった。