『ピストルオペラ』『オペレッタ狸御殿』みた。鈴木清順はあくまでも鈴木清順。

ピストルオペラ スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

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先日、近所のスーパーで中古DVDのカゴ売りをやっていて覗いたら『オペレッタ狸御殿』があったので購入、それならついでにということで『ピストルオペラ』も見てしまおうということで。
ピストルオペラ』のほうは、『殺しの烙印』のセルフリメイク的ななにか。『殺しの烙印』はよかった覚えがあり(http://d.hatena.ne.jp/k-i-t/20060304#p2)、まぁそれをまじめにリメイクするような鈴木清順ではないだろうと思いつつ、見てみたらかなりよかった。えーとつまり、支離滅裂でくだらなくて、しかし殺し屋の江角マキコがサマになってスタイリッシュな活劇に見えなくもない、まぁしかしけっきょくのところ安っぽいキッチュで唖然とさせる、ようするに鈴木清順、だった。なのでこれは機嫌よく鑑賞(ところで、永瀬正敏が出るとか主題歌がエゴラッピンだとか全体的な雰囲気とかで妙に林海象濱マイク」感があったがTVドラマ版の濱マイクは2002年なので『ピストルオペラ』より後、映画版は90年代なのでずっと前であるね)。でもって、『オペレッタ狸御殿』のほう、これは結果的に鈴木清順の遺作となったものなのだけれど、これはもう、どういう心境で見ればいいのかわからない、多少の覚悟のある人間も余裕で振り切るほど唖然とさせるのだけれど、まぁ鈴木清順だからそういうものなのかと思わせてしまう。
「狸御殿」モノ、というのは、日本映画にそういうジャンルがありまして(狸御殿 - Wikipedia)、自分的に『初春狸御殿』はフェイバリットなのだけれど(「狸御殿」の検索結果 - クリッピングとメモ)、基本的には木村恵吾が監督をやる大映の映画、なのだけれど、それ以外に、美空ひばりが出演する大映以外・木村監督以外の狸御殿映画、というのもあるわけで、この鈴木清順版はそれにあたる。松竹なので、松竹版の『七変化狸御殿』が典拠になっていて、なんと美空ひばりをCGで重要な役で出演させているという謎の凝りよう。そのへんを、あぁ松竹だからな、と理解することが、この『オペレッタ狸御殿』鑑賞に要求されているのかもしれないわけで、そういう言い方をすると意外と参照の対象がいくつかあるような気がする。ストーリー的にはまず「白雪姫」が踏まえられてるんだけれど、大枠としてはシェークスピア?なのか(まぁ、狸御殿映画というのは基本的にはロミオとジュリエットだというのもあるが)、舞台は戦国時代?なのか、キリシタンバテレンに囲まれた父王「安土桃山」が魔女の予言をきっかけに息子を殺そうとする的なおはなしで、キッチュな衣装や色彩なんかをみるに、これは黒澤明のパロディでもあるのかと思わせ、チャン・ツィイーからは武侠映画の雰囲気も出ているし、平然と中国語を話し歌う狸姫は、この作品がカンヌ国際映画祭特別招待作品だったなあとふと思い出させる。そしてしかし、それらを総合した上ですべてを台無しにする安っぽさで、この作品を見て何か気の利いたことを言おうとする意欲を封殺しにかかっている。狸御殿映画そのものがキッチュなパロディなので、まぁふつうにやっても「いわゆる鈴木清順ふう映画」に着地する道はありそうなんだけれど、そんなぬるいことでおさまりのつく鈴木清順ではないのだった。テレビのバラエティ番組のコントみたいなセットとCGと、一面の花畑や草原や美しい海岸でのロケを、まったくなんの気なしといったふうに繋げてくれるので、さすがにこれは映画として成立しているのかと悩みながら、しかし満開の桜が咲いているじゃないか、桜吹雪が派手に舞っているんだからこれは鈴木清順なのだ、と自分に言い聞かせ、まぁしかしやはりどういう心境で見ればいいのかわからないまま111分を過ごすという、まぁそれは総じて結果的に、鈴木清順だからなのだった。
そうそう、『ピストルオペラ』はヴェネチア映画祭に行っていて、DVDの特典映像には会食のシーンで鈴木清順のとなりに蓮實重彦が座っているのが映っている。