通勤電車で読んでた『アニメーターの社会学』。エスノメソドロジーだよと聞いて。『デスマーチ』の人を参照してて、対話的構築主義みを少し抜いた感じ。

アニメーターの社会学―職業規範と労働問題

アニメーターの社会学―職業規範と労働問題

なんか、エスノメソドロジーによる研究だよというのを見かけて、読んでみた。労働社会学の大学院生の人の修論が本になったのだと。で、どんなふうかと思って読み始めると、話のマクラとして本田先生の「やりがい搾取」のはなしとかがでてきて、ふうんと思いながら読み進めると、『デスマーチはなぜなくならないのか』(http://d.hatena.ne.jp/k-i-t/20161202#p3)の人の論文を参照しつつたしかに自分はエスノメソドロジーでいくよと書いてある。ウィーダーの「コード論」が参照されている。しょうじき、自分的にはなぜかしらないけれど、ウィーダーの「コード論」を参照したよというものとの相性が悪いみたいでなんか釈然としないものがなぜかいつものこるわけだけれど、概念分析するよとも書いてあるしで、まぁエスノメソドロジー的な言い回しで書いてあるし、ともあれ先を読む。著者の人は、さいしょ、劣悪で知られるアニメーターの賃金とか労働環境とかについて、やりがい搾取だとか夢追いなんとかとか、そういう文脈で捉えようとして、きっとアニメーターの人たちは自分の仕事をクリエーター的に捉えてやりがいを感じるあまりに低賃金を甘受するのにちがいないと見通しを立てて、じっさいにアニメーターの人たちにインタビューしてみると、「クリエーター?なにそれ」的な反応が返ってくる。それで、アニメーターの人たちは自分の仕事を「職人の仕事」的なイメージで語る。アニメの仕事は組織化・分業化されているので、上流の指示の意図を汲んできちんと実現できるのが一人前であって、自分流の創造性を勝手に発揮とかしようとするもんじゃないよと。なもんで、著者の人はあらためて「職人/クリエーター」という対を導入することにする。それでいろいろ聞いていくことで、アニメーターが「職人的規範/クリエーター的規範」というふたつの職業規範を「利用して(←このへんがウィーダーみだということらしい)」仕事をしているよ、ということになる。だいたいこのへんから、読んでて「うーん」と思うところが増えてこなくもないのだけれど、著者の人は「職人/クリエーター」の二分法を、「指示に従う/独創性を発揮する」みたいに捉えているようで、なんか、クリエーションというものを、なんかこうひらめきというか、天才的な人の頭の上に電気がピカーンみたいな、そういうふうに捉えているんじゃないかという気がして、いっぽう職人のしごとを、言われた通りに機械的に手を動かしたら生産物が一丁上がりみたいなふうに捉えてるんじゃないかという気がして、なんかそういう二分法で「職人/クリエーター」をイメージしてるんじゃないかなあと感じて、なんかぴんとこないなあと。自分的には、アニメーターさんの仕事というのは、「独創性」とかひらめきピカーンとかいうよりは、「その絵が生きてるみたいに動くようにすること」であって、いちばん「生きてるみたいに動く」絵が描ける人というのが、いいアニメーターなのだから、それには、物が動くときの物理法則だの、人間の体の動きの仕組みだの、重心の移動だの、たとえば見る人の感覚とか情動とか目の錯覚の法則とかもふくめなんだのかんだのに対する正確な理解をしっかりとペン先に込めて具体的な絵に受肉することができること、がいちばん重要なんで、それは「職人のしごと」と呼ばざるを得ないように思えるし、同時に(インタビューの中でアニメーターの人が言ってたように)どうしても必ず個性が出てしまうというか、一回一回が個別具体の挑戦であらざるをえないわけなんだろうけれど、それは自分だけのひらめきピカーンな「独創性」とは全然別物だと思えるし、むしろ監督以下全てのスタッフが同じ方向を向いてひとつのアニメーションを動かそうとするときにほんとうに絵がいきいきと動き出すわけだから、「指示に従うか/自分らしさを込める裁量があるか」みたいな二分法ははずれてるんじゃないかなあと思うんである。たぶんおなじことはたとえばオーケストラとソリストの関係とか、学会と研究者の関係とか、まぁよくわかんないけどトヨタ方式の工場の現場だって、まぁ考えてみればたいていの世界でおんなじようなことは言えると思うんだけど。
で、まぁそういう、ちょっと自分的にはピンときにくい「職人/クリエーター」の二分法を念頭にインタビューをやったり、「分析」したりしていて、どうもちょっと、「アニメーターの視点で記述する」というにはちょっとインタビュアー・分析者の押しが強くて固いんじゃないか、という読後感なんである。
あと、「巧みに」って単語が出てくるとある種の流派の「エスノメソドロジー」みがグッと出てくるなあと、読みながら思ったことを追記しておきます。

Youtubeで有名な、「アニメーター 大塚康生 ルパン三世 石川五ェ門 抜刀作画」というのがある。

こういうの見ると、やっぱりひらめきピカーンではないよなあと思う。
ちなみに、この↓動画は、本書を読むときの入門になるかも。