通勤電車で読む『交通誘導員ヨレヨレ日記』。

HONZで紹介されてたので読んでみた。
『交通誘導員ヨレヨレ日記』人生の縮図そのものの悲哀 - HONZ
著者の人は72歳の編集者・ライターで、編集プロダクションの会社もやっていたけれどまぁそれが傾いたり、なんやかんやで借金も出来て生活のために警備員の仕事をはじめて2年、で、その経験を本にした、という。でまぁ、仕事の内容は、道路で棒のようなものを振って交通誘導をやっている、あの仕事。で、わたくしは免許を持ってなくて車を運転しない人なので、ふつうに歩行者として道路工事のところとかを歩くと、たしかにヘルメットをかぶった警備員の人がいて誘導してくれるので、ごくろうさまです、ごくろうさまです、すいません、とおじぎをしながら通るわけだけれど、まぁそういうのはこの本ではあんまし出てこなくて、まぁ当然、基本的には相手は自動車で、そうすると自動車を運転すると人は豹変するというのでひじょうにたいへんであるようだし、また、警備員の仕事仲間とか、クライアントに当たる土木会社とか建設の現場の親方とか作業員の人とか、まぁ登場人物にはことかかないということにもなりそうなものである。しかし、この本、意外に気持ちよくすんなり読めるのは、著者の人も登場人物の人たちも、基本的にちゃんとまじめに仕事をしていて、けっこう感じの悪い人や腹の立つ人や、かなりポンコツっぽい人も含め、いちおう現場では働いている人数には入っているわけだしじっさい仕事をしているように書かれているし、著者の人もじぶんで良くもなく悪くもなくふつうの警備員であると言ってるように、ふつうにちゃんとまじめに仕事をしている。ひょっとしたらこの本に期待されているかもしれない、「下流老人たちの悲惨な労働ドキュメンタリー」みたいなふうには、なっていなくて、著者の人の奥さんとかは世間体を気にしたりはしているものの、著者の人からして、べつうにふつうの仕事としてふつうに働いているふうでもある。まぁ、そのへんは、著者の人のライターとしての筆力の問題かもしれないし、あるいはなんだかんだいって大卒者のハビトゥスが著者の人の仕事ぶりと文章とを悲惨さから遠ざけているということなのかもしれないけれど、しかしまぁ、ふつうに考えて、この世のなりたちのなかで、土木工事や現場警備がつねにちゃんとおこなわれていることは当たり前に重要なことだし、それが当たり前になされている現場が当たり前に描き出されているんだから、ふつうに気持ちよく読めてあたりまえということなのだろう。