通勤電車で読んだ『政治学者、PTA会長になる』。おもしろくてぐっとくるいい本。『居るのはつらいよ』にテイストが似てるっていうか。

タイトル通り、政治学者の人がPTA会長になったという本。帯に「踏み込んだ先は「魔界」だった!」という惹句が書いてあり、まぁそういう内容なのだけれど、でもそれはこの本の入り口のところのはなし。前世紀の遺物のようなPTAの世界に政治学者が単身乗り込んでバッサバッサと斬りまくる異世界転生モノの痛快エッセイ、かと思いきや、そういうおはなしではないわけである。で、この本、自治とは、とか、ボランティアとは、とか、民主主義とは、とか、そういうことをちゃんと自分の体を通して芯から考えるためにとても刺激になる、そういういみでは政治学者の人が書いたとてもぐっとくるいい本ということなのだろうけれど、ミソはなにかというと、著者の人じしんがPTAの世界の中でいろいろなふつうの人たちとかかわってああだこうだやるうちにみずから変化していくところ、民主主義の基本問題みたいなところでじたばたしながら著者の人が政治学を再発見しているようにみえるところ。テイストから言うと、まいど引き合いに出すけれど『居るのはつらいよ』に近いものがある。ええとつまり、あれも臨床心理学者が「魔界」に踏み込んで、ちょっとがんばったり空回りしたり失敗したり助けられたり、おっちょこちょいなかんじでああやこうやするのを、ちょっと自虐的なユーモアと、周りの人たちとのやりとりの細やかな描写と、ちょっと泣かせる「ふつうのひとたちのふつうの心情」への率直な共感によって、みずからの学的な在り方そのものを新鮮に再発見するみたいな、読んでぐっとくるエッセイ、というかんじなのである。