『風の谷のナウシカ』読んでから『危機の時代に読み解く『風の谷のナウシカ』』読んだ。

週末に姉上と長電話で久々に本の話。連休に『危機の時代に読み解く『風の谷のナウシカ』』を読んで非常に良かったとのことで、電話しながらPCで検索したら社会学者なんかも参加してておもしろそうだった。で、その本は読んでいなかったし『風の谷のナウシカ』も、たしか昔に3巻か4巻ぐらいまで出ていた時に買ってそこで止まっていたので、これはやはり心意気というわけで電話で喋りながらAmazonで注文してしまった。そしたら翌日さっそく届いたので、とりあえず『風の谷のナウシカ』全7巻を読んで、それから通勤電車で『危機の時代に読み解く~』のほうを読んだ。
でまぁ『ナウシカ』面白かったし、映画版の印象とは確かに違う。映画版は漫画版の冒頭のところだけだよということだったが思ったよりずっとそうだった。で、2時間の映画では到底実現できない込み入った大河ドラマなのだった。
でもって、そのあとで『危機の時代に読み解く~』を読んだけれど、これは、今年の2月ぐらいに出た本で、もともとは朝日新聞デジタルの連載で、各界の識者18人にインタビューして、コロナや戦争やAIや気候変動や…の現代に読み解くナウシカ、というもの。でまぁ、面白かったし、さしあたり、漫画『ナウシカ』があまりに込み入ってしかもこれで正解なの?というかんじのオチで大団円を迎えるので、まぁこういう本を出したくなる気持ちはよくわかる。で、まぁ章ごとにあたりはずれはあるものの、この話を読むためのなるほどというようなヒントもあり、やはりそうだよねと共感できる指摘もあった。ちなみに、一番ふつうに共感したのは、最初の章の鈴木Pのインタビュー。『ナウシカ』は大河ドラマなんだけれど、ふつうなら壮大な物語を語るなら世界観とか主人公の人物像とか大状況をまず見せるのが基本だが、本作はナウシカが旅をしてその目線で見聞きしたことでいろいろわかっていく、という語り方なので、これはサスペンスであると。で、宮崎駿はもともとは『新諸国物語』みたいな「少年少女のための痛快時代劇」が描きたかった、というの。はいはい、それは我が意を得たりである。あと、6巻あたりからの劇的な視点の変化がすごくおもしろいのだけれど、同時にそれは映画を見た人への裏切りじゃないか、「宮さん、これまずいんじゃないですか」っつったら宮崎駿が怒ったとかなんとか、まぁしかし普通に見たらとりあえずまずいっていうかやばいよなあと。主人公が真実を探しているうちに驚きのどんでん返しが、みたいなのはあるとして、しかしそれをやりすぎると今までついてきていた読者が置いてきぼりになる(そのあたりは『コンフィデンスマンJP』見てこれむずかしいなあと思ったときに書いたことでもある( https://k-i-t.hatenablog.com/entry/2023/01/04/230624 ))。でも、シリーズが長かったり長い期間描いていたりすると、たぶんそうなりやすくなるってのもあるだろうなとも思う。あと、「漫画版では「風の谷」のことは途中でどこかにいってしまう」という指摘も。まぁふつうにいってそういう、まぁ危ない橋をわたりつつ、まぁしかしそれらがぜんぶいいほうに作用して奇跡的に傑作長編になってるんだよなあというところ。
あと面白かったのは大童澄瞳@『映像研』の章で、なるほどじゃんと思いながら、同時にまたこの人はたしかに最近ビオトープとかやってて、これが「人工的に作られた生態系」なわけですな。偶然か知らないけれどやっぱふつうにじっさいにやっている人のはなしはおもしろいですな。
あ、ちなみに『危機の時代~』であまり言及されてなかったけれど自分的に『ナウシカ』でもうちょっと見たかったのが、クシャナの軍が神速の強襲突撃で敵の砲台を撃破するみたいなところの関連の話。クシャナって人は司令官として優秀でしかも人望があり、優秀な兵たちが彼女のために喜んで命を投げうつわけで、彼女も兵たちへのリスペクトをあらわす場面も何回もあって、すごくいいなあと思って読んでたんだけど、じっさいにはその活躍シーンが一カ所?しかなくて、このはなしのなかではほとんどが、むしろ権力闘争の犠牲になって実力を発揮できないまま生殺しにされてしまってるか、あとはおはなしがでかくなりすぎて騎兵戦どころのさわぎでなくまるごと殲滅みたいなはなしになるか。いやあ、もうちょっとこの軍隊の活躍を見たかったと、まぁ、痛快時代劇、活劇が見たい自分としては、まぁ思うわけである。
ていうかあれですね、『ナウシカ』の世界って、そういうわけで、おおきな世界の全体があってその一部を描いているってふうになってるわけで、しかも、クシャナの軍だけでなくほとんどの、とくに若い人たちにとって、自分たちが生き生きと活躍できる時代が終わってしまって、大きな終末にむけて逃げ惑うか、抗おうとしながらむざむざと犬死にするしかないような、そういう時代を切り取って描いているわけで、その中でナウシカはあちこち飛び回ってその世界の真実を明かしていくのだけれど、なんとなく金田一耕助のようにも見えてくる。