『山上敏子の行動療法カンファレンスwith下山研究室』。これはよかった。

いいらしいということで読んでみたこの本( https://k-i-t.hatenablog.com/entry/2023/06/12/231748 )の著者の人の本をおかわりで。東大の下山という認知行動療法の先生の研究室の大学院生が、山上先生のスーパーヴァイズを受けるという一泊二日のカンファレンス合宿のセッションを本にしたもの。経験が浅い大学院生がケース報告をして、それに対して山上先生がコメントを言っていくと、なるほどそこに気を付けるのか、とか、あーそう考えるのか、とか、すごくぐっとくる。山上先生は、すごく切れ味のいいコメントを入れていくのだけれど、同時に、ケースを担当している大学院生にたいして、ちゃんと認めて評価している。
抜き書きしたいことばがたくさんある。
理解と共感について。

精神科臨床は、こちらがわからないこと、体験できないこともたくさんあります。だからとにかく聞いて、それをそのままとる、わかるということが基本になるのです。こちらだけではわからないことがたくさんあるから、とにかく聞いて、あれこれ考えて、それをとることが大切。人をわかるというのは言葉で表現できるということね。私たちの仕事はわからないとできないからね。
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たとえば、訴えられることの多い不眠でも、何時ごろ布団に入るのかとか、その人の不眠がどんな不眠なのか聞かないとどう対応していいかわからないです。簡単そうにみえる不眠だってそうです。(…)昨日私が報告したケースでね、二時間おきに寝たり起きたりしていましたね。あんな寝方で生活しているなんて、聞かなきゃわからないじゃない。よく生活を知ると、それに対応する仕方が工夫できる。不眠と聞いただけでは対応の仕方がわからないよね。わからなければ何もできないのが私たちの仕事である、と考えて謙虚に状態を知るといいね。(…)
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共感は出てくるもの。わからないと共感は出てこない(笑)。聞くこちらが分かるように聞いていると、自然に共感も出てくる。何もケースをとって理解していないのに共感したなんて言えないよね。共感するというのは、わからなければできないことでしょう。どこが苦しいのか、どんな苦しみ方をしているのか知らないと、聞く側の気持ちは動きません。共感という言葉を、共感に限らないけれども、安易に使わないようにね。言葉だけが独り歩きすることがあるから、それは注意が必要ね。

テクニカルタームをできるだけ使わないということ。

ケースの話をするときに、テクニカル・タームをできるだけ使わないで説明する練習をしたりするとよいです。テクニカル・タームを外して話すと、その人の状態像を繊細に話すことになります。テクニカル・タームで説明すると概念説明になるので、どれだけ自分がわかっているかわからないこともあるよね。クライエントの話をするとき、できるだけテクニカル・タームを使わない訓練をするのも、うまくなるのに役に立ちます。
私は、若い人たちがケースを検討するときに「〇〇状態がある」と言ったら、それは実際にどんな状態なのかと聞くのね。そうしないとわからないでしょう。テクニカル・タームは概念をまとめる言葉として大切ではあるけれど、自分がそれを使うときには、それが自分のイメージの中の何を指しているのかを考える。そういう癖をつけておくと臨床が殺伐とならず、生き生きとなりますよ。
(発言者C ー 殺伐とならないというのはどういうことでしょうか?)
潤うというかな? 「幻聴だ」と言うより、「あの人は、自分のことを知らない人が遠くでこんなことを言っているのが聞こえてくるのを怖がっている」のほうが、潤いがあるでしょう(笑)。

悩みと症状を区別して捉えることについて。

(…)このケースの症状は、ふつうの悩みと少し違って、悩みの連続だけでは理解できないところがあるの。だけど、病気をもっているのはその人だから、その人の悩みとしても聞かなければいけない。それでも、病気として出てくるところは、悩みの続きの意味のみで聞くと、クライエントにとっても説明できないところがある、ということは知っておくこと。症状とはそういうところをもっているのです。
医師は病気として治療することが多い。あなたがたは、生きているその人の心理を援助する。そのときに、病気の一定の症状も扱っている。そこは少し整理が必要なところがある。私たち医師は病気を見ているから、こういうものは日常茶飯事に来ているものなのね。あなたたち心理職の人は、生き方とかそういうことをみているから、病気のとり方に注意がいると思うの。症状として囲む必要がある。症状は、AさんもBさんもCさんも基は共通して同じ。症状は症状として捉えることが必要。だけど、症状は同じでも、その人その人の抱く悩み方は全部違うじゃない。悩みと症状を区別して考えるような習慣をつけると良いでしょうね。症状を悩みの連続でとるととりにくいことがある。(…)