町おこしで生徒の意欲をかき立てる

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20060307us41.htm?from=os2

伸ばす科学の力(6)
研究動機「地域のため」
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人工イクラ作りの実験を見守る四ヶ浦教諭(左端) 町おこしとなる研究で、生徒の意欲をかき立てる教師がいる。

 「先生、金沢で砂金取れるの知っとるけ(知っているか)?」

 そんな生徒のひと言がきっかけだった。もう20年も前の話だ。

 「金沢」の地名は「金を洗う沢」に由来するが、文献は少ない。私立金沢高校の化学教師、四ヶ浦(しかうら)弘さん(51)は「自分で調べよう」と思い立ち、戦前まで砂金掘りに従事していた古老らを訪ね歩いた上で、市内を流れる犀川周辺で砂金を発掘した。地元テレビでも紹介され、話題になった。

 地元の石川県に多い温泉に目をつけたのは約10年前。豆乳を固める「にがり」の代わりに温泉水を使う「温泉豆腐」作りに挑戦した。温泉の成分によっては「にがり」と逆に、豆腐を溶かす作用があることが判明した。

 この話を聞いた地元の温泉旅館が、温泉水でとろける豆腐として食事に出し、評判になった。今では片山津温泉加賀市)に、観光客による温泉豆腐作り体験コーナーも出来ている。

 「地元の人に、もっと地域のことを知ってほしい」と、昨年は、研究成果を公開するホームページ「金沢 金と温泉の科学館」を開いた。



 船や車などの木工細工作りが大好きで、クレーン車を作った時は、クレーンの仕組みを教わるため、おもちゃ会社を訪ねる、こだわりの強い小学生だった。

 理科好きでもあったが、中学、高校と進むにつれ、受験指導の授業がつまらなくて仕方なかった。「暗記だけでない、理科のおもしろさを伝えたい」と、東京都立大学で学んで教職に就いた。

 理学部や工学部出身ではないため、「専門知識に欠ける。その分、生徒の目線に近いところで一緒にわくわく出来る」。常温では気体のブタンが、ライターの燃料として使われていることに疑問を持ち、製造会社にかけ合って温度計入りライターを作ってもらったこともある。

 40代になってから、金沢大学の大学院に入学し、微生物が作る鉱物の研究で、博士号を取得した。

 金属の性質を学ばせるのに、地元の特産品、金箔(きんぱく)を実験材料に使うなど、授業に工夫をこらすことは言うまでもない。「『分かった』という思いを積み重ねることが、生徒それぞれの自信につながると思う」



 砂金や温泉の研究は個人的なものだったが、一昨年からは、顧問を務めている科学部の部員にも研究への参加を提案するようになった。自分自身の経験から、町おこしへの参加が、研究を進める大きな動機付けになると思ったからだ。

 温泉水内のカルシウムなどの濃度による、豆腐の固まり具合を調べた女子部員は昨年、採掘技術や成分研究など温泉学を学ぶ金沢大の学生たちと一緒に、片山津温泉で研究発表をした。

 温泉水を利用した「人工イクラ」作りを研究している男子部員もいる。祖父が元旅館経営者で、「いずれは商品化して、地元の名物に」と夢を広げる。さらに、温泉水内のストロンチウムを抽出し、花火を作る研究に乗り出した生徒も。

 町おこしへの取り組みが注目されるのはありがたいと思う。「社会の役に立っているとわかれば、子供たちは楽しく、意欲的に研究に取り組める」。自分の役割は、生徒たちを元気にさせることだと自覚している。(大木隆士)

(2006年3月7日 読売新聞)