新教育の森:行事縮小どうして? 校長先生を代えて下さい

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 ◇都内の定時制・女子生徒の訴え
 校長先生を代えてください−−。東京都墨田区定時制高校に通う4年生の女子生徒(18)が今年3月、都教育委員会に校長の交代を求める手紙を出した。同校では、2月に定時制教員一同(8人)から校長の更迭要求書も提出されている。異例の生徒、教員からの交代要求。背景を取材すると、都教委が強く求めている「職員会議適正化」の問題が浮かび上がった。【高山純二】
 ◆背景に「適正化」−−教員からも更迭要求
 ◇便せん4枚に
 便せん4枚の女子生徒の手紙では「学校行事が盛んだと聞いて入学した。でも、行事がどんどんなくなって、時間も短縮されてしまった。先生に聞くと、『校長先生が授業時間を増やすと決めたからだよ』と言われた」とした上で、「行事に来ない校長が決める権利がどうしてあるのですか?」と訴えた。
 女子生徒は毎日新聞の取材に対し、「友達に手紙を出そうと思っていると話したところ、『得にならないし、意味ないんじゃない』と言われたが、納得いかないことは納得いかない。校長は生徒と話をしないし、コミュニケーションを取ろうと思っても取れない」と胸のうちを明かした。
 ◇対話の姿勢ない
 校長は04年春に赴任。初めての校長職で、全日制と定時制の校長を兼務している。
 都教委によると、同校の教員は05年2月から計3回、都教委に問題点の改善を文書で求めてきた。最初の訴えとなる同月の嘆願書は全日制、定時制教員から提出された。
 今回の更迭要求書はA4判6枚で、行事縮小の強行など計41項目にわたって、校長の問題点を指摘する。要求書は「(都教委から校長に)指導が入れられたと連絡を受けたが、現在も改善されていない」と提出の理由を説明。同校のある教諭は「校長は反対意見を受け付けない」と、校長に対話姿勢がないことなどを訴える。
 ◇職員会議変える
 女子生徒の手紙について、校長は「(生徒を巻き込んで)申し訳なかった」と謝罪した。更迭要求などについても「教員との意思疎通が十分ではなかった。そのことによって生じていると理解している」と話した。さらに、対立の発端に「学校運営(職員会議)」と「教育課程」の「適正化」を図ろうとした点を挙げた。
 校長が赴任した04年春、職員会議では教員が司会をして、教員が質問や意見を出し合っていた。関係者によると、学校内部の役割分担も職員会議で決めていたという。
 一方、都の管理運営規則では、職員会議は校長の補助機関に位置づけ、学校経営方針の「伝達の場」というとらえ方だ。
 校長には、こうした都教委の方針通りに、職員会議を変える意図があった。「職員会議も、教育課程の編成も都の指示通りにやっている」と語る。また、行事の縮小については「学校行事を精選し、授業時間を確保したかった」と述べた。
 都教委は今年4月、都立高校などに、「職員会議を中心とした経営から脱却することが不可欠。職員会議において『挙手』『採決』等の方法を用いて職員の意向を確認するような運営は不適切であり、行わないこと」との通知を出し、「職員会議適正化」の徹底を図った。
 ◇処分の必要ない−−都教育庁人事部の話
 校長から事情は聴いた。校長のやり方、言い方のまずさはあったと思うが、校長も理由があって(適正化を)やっている。処分性はないと思う。
 ◇「説明不足」を指摘−−女子生徒の親
 都教委の指導もあって、校長は5月中旬に女子生徒と会い、事情を説明した。話し合いを終えた女子生徒は「手紙に沿って話をしたが、納得せざるを得ないという部分もあった。ただ、これからも納得いかないことがあれば、話を聞いてくれるということだったので……」と複雑な表情だ。
 同席した女子生徒の父(51)は「トラブルになると、(生徒は)教師の味方になることはある」と教員からの影響があったことも認めた。その上で、「一方的に校長だけの責任ではないと思うが、校長の説明不足はあるのではないか。説明が十分ならば(娘は)手紙は書かなかったと思う」と指摘した。
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 ◇校長評価の仕組みを−−東京大大学院・佐藤学教授
 東京大大学院教育学研究科(学校教育学)の佐藤学教授に、職員会議や学校経営のあり方などを聞いた。
 −−今回のケースについてどう思うか。
 ◆全日制と定時制の校長を兼ねていること自体に無理がある。勤務(校長の勤務時間は午前8時半から午後5時15分)形態上、定時制は校長不在の学校になっており、制度として問題。いなければ、校長は責任を果たすことはできない。大本の原因はここにあるのではないか。校長がいないんだから(意思疎通ができず)対立するのは当たり前だ。
 −−都教委の責任は。
 ◆都教委の指導にもかかわらず、校長が自身の判断で全日制を中心にし、定時制をないがしろにしていれば校長の責任だと思う。しかし、都教委がこういう制度を放置していたならば明らかに都教委の問題で、責任は大きい。
 −−職員会議問題が発端とされる。
 ◆上意下達のシステムをいくら強めてもマイナスにしか作用しない。学校は病院や大学と同じような専門家組織。重要な問題は話し合い、意見を高めながらより高いレベルの問題解決をする必要がある。お互い仲が悪くて、コミュニケーションをしていない病院は怖いでしょ。
 −−都教委は採決禁止の通知を出した。
 ◆自由と創造性が保障されないと、学校は活力を失う。潜在能力も下がるし、校長の指導力も下げてしまう。職員会議は校長の補助機関として、教員の合意を形成する場。その機能を高めなければいけないが、都教委は機能をなくす方向で動いている。
 −−あるべき校長像は。
 ◆専門家の組織にふさわしい専門的見識を持ち、教師、生徒、親に信頼され、校長が責任を担う能力。「専門的見識」「信頼」「責任」の三つがそろわないと、校長として機能しないんですよね。また、校長は教員を評価するが、自身は評価されない。むしろ、校長を評価するシステムを作る必要がある。
毎日新聞 2006年6月5日 東京朝刊