「日本の算数」海外で人気

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20060719ur01.htm

日本の算数教科書が英訳され、米国など海外の教室で使われている。わが国の初等数学の水準の高さが証明された形だ。

 ◆薄いわりに内容充実

 今年4月、小学校算数で市場占有率トップの36%を誇る「東京書籍」が2000年版の教科書「新しい算数」を英訳した。学習内容が3割減った現行の学習指導要領を導入する前の教科書で、発売以降、米国などで使われ出している。

 「網羅的な内容の充実度に加え、実際に米国の教室で使う英語表現を踏まえた翻訳にしたのが人気の秘密。内外の教育学者も高い関心を寄せている」と同社算数編集部の小笠原敏成編集長は語る。

 米国の教科書は、分厚いわりに内容は浅く、学年ごとの教える内容に重複がある。こうした反省から、数学教育改革が進められているが、その具体的なお手本の一つが日本の授業だ。1999年に米国で出版された「ティーチング・ギャップ」(邦題「日本の算数・数学教育に学べ」)はベストセラーとなり、深い授業研究の成果が結実した教科書には特に熱いまなざしが向けられる。

 今回の翻訳に携わった米デポール大学の高橋昭彦助教授は、米国の教師らに数学教育の改善法を指導しているが、「日本の算数教科書は薄くても内容が充実している。そのレベルの高さに、米国の高校の先生も感心する」という。

 日本の教科書の最大の特長は、問題を解く考え方を解説してある点。知識を覚え、練習問題を解くのが中心となる米国と異なる。実際に、米国では、先生の講習会や、大学での教育にも翻訳本が使われる動きが広がっている。

 同社によると、米国のほかに、国際調査で数学応用力が日本より上位に位置するシンガポールなどアジアからも関心が寄せられているという。

 「学校図書」も昨春、算数教科書の英訳本を出版した。内容は新学習指導要領に基づくもので、米国や、太平洋に浮かぶマーシャル諸島などで副教材や教科書として活用されている。また日本国内でも、英語教材として、英語教育に力を入れている私立学校などで使われているという。

 日本の数学文化は今後も世界に広がる勢いだ。しかし高橋助教授は、「評価されるのは小学校の算数まで」「教科書も、海外で高く評価されているのは、内容が3割削られる前の旧指導要領のものだ」と現状への厳しい見方も示している。(長谷川聖治)

(2006年7月19日 読売新聞)