『蛇にピアス』ふつうの小説でふつうに面白かった。

蛇にピアス (集英社文庫)

蛇にピアス (集英社文庫)

先日読んだ『インストール』はそうとうしょうもなかったけれど、こっちは、ふつうの小説でふつうに面白かった。賞を取るほど新鮮かとか斬新かとかいわれるとそうも思わなかったけれど。
主人公の女の子がいて、男が二人いる、と。ひとりはガキで甘えただけど切れると怖いぞと。もひとりは本当に悪そうで大人だぞと。女の子はガキのほうと同棲するけれど、根がMなので、悪い男のほうのS的な電波に惹かれてそっちにもいくぞと。そういう設定がさいしょに提示されるので、まぁ三角関係モノってことで適当な決着がつくんだろうな、それまでに適当にあれこれアヤをつけた上で適当にオチにもってくんだろうな、と見当がつく。
女の子はガキとおそろいのピアシングをはじめる。舌ピアスをして、徐々に穴を大きくしていってついに舌先が二つに裂ける(蛇みたいに、ということですね)ようにするという。これ、とうぜん時間がかかるので、その時間に合わせて、徐々にあれやこれやあって、蛇舌が完成するかどうかというあたりで物語がひとくぎりするのだろうな、と見当がつく。
また、そのピアス屋が悪い大人のS男で、だから一人の男とおそろいのピアシングをするために、もう一人の男のもとを訪れる、という仕掛けになっているわけだけれど、このピアス屋は彫り師もやっていて、女の子は、ガキとおそろいでありつつひそかに彫り師のピアス屋の悪い大人のS男とおそろいでもあるような、刺青を入れることになる。そうすると、これまたとうぜん時間がかかるので、その時間に合わせて、徐々にあれやこれやあって、刺青が完成するかどうかというあたりで物語がひとくぎりするのだろうな、と見当がつく。
また、ガキは甘えただけれど切れると怖い男なわけだけれど、街でヤクザにからまれて反撃して、切れてぼこぼこに殴って逃げるのだけれど、殴った相手が死んだみたいなことになっていて、ということは警察が動くみたいなことになって、このガキがつかまるかどうかということになってくるのだけれど、それがまた時間がかかるわけで、その時間に合わせてこれまた徐々にあれやこれやあって、警察に捕まるかどうかというあたりで物語がひとくぎりするのだろうな、と見当がつく。
ま、そういうようなことで、けっこう構造がかっちりと見えるので、あとは、あれやこれやの部分を適当に − ピアシングのあれこれとか、刺青のあれこれとか、性交だのSMだののあれこれとか、拒食やアルコール依存やについてのあれこれとか、そのたそのた − 埋めていけば、普通の小説が出来るのだと思う。
なんかこう整理してみると、刺青のくだりだけ冗長なんじゃないかという気もしてこなくもないけれど、まぁふつうに面白かったし、じゃっかんのひねりはあったようにも見えなくもない。
でも賞をとるほどかねえ、というのはあるのだけれど。