風呂で読む『蹴りたい背中』。一作目よりかはよかったけれどだからといってよかったってほどでも。『人間失格』と比べたり。

蹴りたい背中 (河出文庫)

蹴りたい背中 (河出文庫)

主人公が性的魅力のない女子高生で、内向的っていうか孤立気味で、自分は孤高の存在だとか思いこんでいるタイプで、ようするにひとことでいうと自意識過剰で、それがクラスでやはり孤立している同種のキモい男子に向けてあれこれ理屈をつけながら性的に煩悶する話。
本人以外の誰もがわかっていることを本人だけが見えてない、というその本人が主人公で語り手なので、叙述が全体として狂っている、というのが趣向なのだと思う。しかし、語り手以外の視点からの語りがけっこう何回もさしはさまれてるので、ヒントが多すぎて仕掛けがあからさますぎるという気もする。ネタが割れすぎてトリックに欠けるっていうか。ていうかそういう話ではないですか?
ていうか、『人間失格』バイ・太宰治、っていうのがあって、あれを読んだ人の半分以上はたぶん、主人公の男が異様な美青年のモテ男だと思ったまま読み終わると思うのだけれど、わたくしはあれ、主人公がそういってるだけのフェイクだと思っている。でも、あの主人公の男が自意識過剰なだけの客観的には凡庸なたいしたことない男だというのは、さいごにちらっと示唆されてるだけだし、いちおう冒頭のところでは、美青年写真(「奇跡の一枚」ってかんじだとおもうけれど)もでてきたりして、なんでかなりびみょうな判断でもある。でもそのへんが微妙に揺れるんで、主人公の「手記」の形をとった作品の叙述が微妙に揺らいでサスペンスフル&滑稽でグロテスクで残酷なのだ、という気がしている。
人間失格 (集英社文庫)

人間失格 (集英社文庫)