性同一性障害のエスノグラフィ―性現象の社会学 (質的社会研究シリーズ)
- 作者: 鶴田幸恵
- 出版社/メーカー: ハーベスト社
- 発売日: 2009/10
- メディア: 単行本
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第二部のほうは、エスノグラフィー全開で、結構いい感じだと思ったのは、まぁデータとしてはインタビューのやり取りの会話記録なのだけれど、著者の人=インタビュアーがけっこうゆるい感じでてきとうにブレながらインタビューしているところ。それでも、誠実っていうか、ちゃんと話を聞くぞっていう気持ちがちゃんと出ていて、だからインタビュイーの人たちもちゃんと喋ってくれているかんじがでている。そうすると、当事者のびみょうなニュアンス、たとえばTSとTGは違うしFtMTGでビアンのタチなんてありえないとか、女装は認めるけど自分は違うとか、なんちゃってが増えてる今ってちょっとどうなのよ、本人のためにどうなのよだし、自分たちにも迷惑っていうか影響あるしどうなのよ、みたいなごちゃごちゃした話を丁寧に聞き取れるわけだし、そうするとそれをカテゴリー分析でうまいこと整理することもできる、エスノメソドロジーの出番もまわってくるってもんである(まぁ、会話から意味を読み取るときにちょこちょこ会話分析風の「ここで筆者はなんとかかんとかの理解を提示している」とかなんとか、みたいな言い回しが出てくるのはべつに要らないと感じながら読んでたけど)。なんていうかまぁ、たとえばのはなし、めちゃくちゃ高圧的なインタビューをやって強引な解釈から押しつけがましい結論を導くような論文を書いたり、それをまた高圧的に「自己分析」とかやってこんどは「インタビューの権力性」みたいな、悪いのは近代科学だみたいな?以前にもまして押しつけがましい結論の論文をもう一本書いて、押しつけがましい論文がなんだかネズミ算式に増殖、みたいなこともこの世のどこかにはありそうで、そうすると、この本みたいな、ゆるいエスノグラファーにしてきっちりしたエスノメソドロジスト、というのは、まぁ好感が持てる気がする。
でもまぁそれはそれとして、じつはいちばん「おっ」と思ったのは、この本の中で言うと小さなエピソードかもしれない、著者の人がどっかの喫煙所かなんかでしゃがんで煙草をふかしてたら遠目に男だと思われた、というくだり。わたくしがこの本を読んでて、自分なら性同一性障害とかじゃなくて「ごくふつう」の日常の中で男女ってふつうにゆらぐよねみたいなところを見たいなあと思っていたので、そのへんで、この小さなエピソードの周辺に引っ掛かりを感じた。ていうか、このまえ高校で模擬授業やったときに、ふつうに生徒さんに「はい、そこのはじっこの彼」とか言っちゃって、なんか固まってるんで「ん?」と思って、近づいて、「あれ?」とか言っちゃって、「ん。あ?彼女なん?」とか派手に聞き直してしまって、一瞥によるどころか手掛かりによる判断でも手際よくいかず、とてもかわいそうなことをしてしまって申し訳なかった覚えがあるのである、ていうかいやー、制服の夏服で、席に座って上半身だけで、たぶん部活やってて短髪で、みたいなちっちゃい女子だったら、男の子かな?って思うぞ?いや思いませんね、すみませんです。あーあ。