帰省のおともは奥泉光『虫樹音楽集』。

虫樹音楽集 (集英社文庫)

虫樹音楽集 (集英社文庫)

ゴールデンウィークに短く帰省して、帰省のお供は奥泉光『虫樹音楽集』だった。汽車の中で読み残りは実家でなんとなく。先日(http://d.hatena.ne.jp/k-i-t/20170422#p1)『坊っちゃん忍者幕末見聞録』といっしょに買ったのを帰省列車で読んだり。奥泉というのだから批評的なパスティッシュでしかもエンタテインメント的にも面白くて、というあたりを期待して読むわけだけれど、文庫本の帯によれば「カフカ『変身』とジャズを見事に融合させた傑作連作短編」ということなので、カフカ?と思いつつ読み始めたわけである。そうすると、まぁ文体がカフカ的とかいうわけでもなく、『変身』のあるシーンをモチーフにしながら、まぁ何かのパスティッシュだと強いて言うならジャズ評論とかジャズ本の文体なのだけれど、連作短編ということで作品ごとに文体も違う。肩に力の入らないエッセイ風の私小説というか自作の後日談といったていの短編がいくつかあり、それがメタフィクション的な仕掛けにもなっている。あとは、ジャズ雑誌?の記事のパスティッシュとか、科学エッセイのパスティッシュ、アホっぽい大学生がハードボイルドなアルバイト生活をするモノローグとか、SFに見せかけた何か?とか、まぁ連作という形式をうまく利用してというのか振れ幅は大きいけれどその中に、ところどころでカフカの『変身』のあるシーンと、ある消えたサックス奏者の姿がふと登場したりして、まぁ不気味というか、場合によっては戦慄というかけっこうゾクリとする。帰省のお供で、のんびりほのぼのとしたユーモア小説的なのを期待していたのだけれど、不気味で戦慄するようなのを読んでしまった。まぁいいけど。