『拝啓天皇陛下様』『続 拝啓天皇陛下様』みた。戦中派のおはなし。

夜になってまた何か見ようとつんどくのDVDを漁っていて、ふと、何の脈絡もなく、これを見てなかったなと思い立って、まぁちょっと遅くはなるけれど二本立てで見ようと決める。いや、先日ふと『山田宏一の日本映画誌』の『男はつらいよ』の章を読んでて『拝啓天皇陛下様』のことも言及されてたんだった。それで見ようと思ったのはあったな。渥美清の松竹入社第一回主演作であると。監督は野村芳太郎で、『続~』のほうで脚本に山田洋次が加わる。『男はつらいよ』に先立って、すでになんとなく渥美清にはどこか「寅さん」のような気配がある。まぁ、あの顔であの声でペーソス交じりの喜劇を演じる渥美清を見たらこっちがかってに「寅さん」を重ね合わせて見てしまうというのもある。おはなしは戦中から戦後にかけての話で、語り手が長門裕之、同じ歩兵連隊に入隊した同期が渥美清。岡山の貧しい村に生まれて、ろくに字も読めないまま何だかで警察の厄介になったりいろいろだったりしたが軍隊に入ったら家もある三度の飯にもありつける、天国のようだとかなんとか。しばらくは新兵モノの映画なのだが、二年で除隊になり、数年後また戦争が起きて招集され、中国大陸を転戦したりして、また長門裕之と再会したり、また前線で負傷して帰国したり、また招集されたりしてるうちに終戦、引き揚げてからもまた長門裕之夫婦の家に転がり込んだり喧嘩をして飛び出たり、音信が途絶えたりまた再開したり、なんやかんやであれこれあって最後にあっけなく死ぬと。で、『続~』のほうは、似たような初期設定だけど別人(名前もちょっと違う)がやはり渥美清で、やはり中国戦線に行き、あれやこれやで終戦を迎え、引き揚げて、召集前に意気投合してた華僑の小沢昭一と再会したり、旧家の未亡人の久我美子を助けたり、あれやこれやでおなじスラムの宮城まり子と結婚したりけんかして追い出したり、あれやこれやで宮城まり子があっけなく死ぬ。まぁそういう映画。で、なにが拝啓天皇陛下様なのか、ということだけれど、わかったようでわからないし、しかもふたつの別々のお話を通じて拝啓天皇陛下様なのだからなおいっそうよくわからない(ストーリー上のつじつまがあるとすると、ふたつの別々のお話でそれぞれ別々のつじつまがあることになるのだけれど、そういうストーリー上のつじつま合わせが細かくなされているわけでもない)。で、ようするに両作の渥美清はごくたんじゅんにじつに素直に天皇に親しみを感じかつ崇拝している、だからいつでも天皇陛下万歳と叫んで死ぬつもりで戦地に赴き、しかし戦争は敗戦に終わって、引き揚げて戦後の混乱を生きながらどこかでずっと天皇陛下万歳を胸に秘めつつ、あるいは割りきれないなにかをかかえつつ生きて、酔って天皇陛下万歳と叫び、そしてあっけなく死ぬ(ナレーションでは天皇陛下の最後のひとりの赤子として戦死した、という言い方をしている)。両作に底流する戦中派のエートスが拝啓天皇陛下様なのである、というかんじ(そうそう、「戦中派」っていうことばが死語になったかもだな。死語になったということは、その世代のエートスについての感触がうすれていくってことかもしれない)。