「本当は恐い「ご近所の底力」」(憂国放談)

http://dw.diamond.ne.jp/yukoku_hodan/200603/index.html

田中
2月半ばに滋賀県長浜市で起きた幼稚園児殺害事件は痛ましかったね。保護者が交替でグループ登園の付き添いをしていて、その日当番だった母親が犯行に及んだわけだけど。

浅田
 加害者は日本人の夫と結婚して中国から来日した女性。幼稚園の保護者グループになじめなかったらしい。

田中
 実はジャーナリストの坂本衛が、サイトの日録でこの件に関して鋭いことを書いてる(http://www.aa.alpha-net.ne.jp/mamos/、2月21日分)。親が恒常的に自家用車で送り迎えをしてりゃ、殺害ではなくとも交通事故に遭う恐れがあるわけで、その点について幼稚園と保護者はどう考えていたのか。送迎に携わっていた保護者の運転技術、使っていた車の保険関係などについてしっかり確認を取っていたのか。そうしたことを考えれば、保護者たちが交替で他人の子供まで一緒に送迎するような行為はそもそもあり得ないはずだ、と。その意味で、幼稚園や保護者たちの意識のありようが信じられない。たとえ多少お金がかかろうともスクールバスを幼稚園が用意するよう求めるべきだ、と。

浅田
 そのとおりだよね。最近、幼児関連の事件が起きるたびに、地域のコミュニティで子供を守ろうっていう声が必ず出てくる。そりゃ確かに地域コミュニティは大切だよ。だけど、そういうのって反転したら隣組による相互監視みたいなひどいことにもなりかねない。今回の事件だって、コミュニティからはじかれてると感じた外来者が、不安と恨みをつのらせたあげく、子供にそれを振り向けちゃったわけでしょ。

田中
 そうなんだよ。コミュニティはより弱き者を追い詰めがちだし、弱き者はギリギリまで追いつめられると最後は反撃にうつってしまう。

浅田
 もちろん、コミュニティに任せるってのは、ある程度は正しいと思う。近所のおじさん・おばさんたちが子どもたちを何気なく見守ってくれてるとか、それはすごくいいことだよ。でも、隣組的な相互監視の中で外来者を排除するようになったら、むしろそこから問題が発生しかねないからね。 そういや、NHKに「難問解決 ご近所の底力」って最悪の番組があるの(笑)。たとえば、ここのご近所では朝になるとみんなが通学路に立って子供たちを見守ってますとか、そういうのを紹介してるわけ。それを見てたら、燃えてるわけよ、おじさんやおばさんが(笑)。

田中
 なんで浅田彰がそんな番組を見てるんだ(笑)。

浅田
 まぁ燃えてるおじさんやおばさんはたいへん結構なんだけど、その一方で仕事が忙しかったりしてそれに参加できない人が出てくるじゃない? すると「あの人は朝も出てこない」っていうんで、悪くすると村八分みたいになっちゃう可能性もあるからさ。

田中
 わかるわかる。そのあたりでサーモスタットが働かないんだね。やっぱり軍隊の国だからさ、日本は。

浅田
 だから、前提としてコミュニティで見守るってことはあっていいんだけど、それを人工的に盛り上げすぎると、何だか戦時中の隣組みたいになっちゃうんだよ。

田中
 難しいところだよね。コミュニティが機能すること自体は決して悪いことじゃない。でも、一歩間違うと危ないんだ。僕がいつも言ってるコモンズとかなり近いんだけど、参加する人たちがもっと自律しなきゃね。