▼子どもの心 小学校で 「事前にキャッチ」教師の務め

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/hagukumu/kodomo/20060522us21.htm?from=os2

「『いじめは許さない』という考えで、子どもたちと接しています」
そう話すと、A男の母親も安心したようだった。
 A男は3年の2学期に転校してきた。おとなしいので、友達と仲良くできるかどうかが心配だと、転校前に母親から相談された時の答えだ。
 A男は確かに口数は多くない。だが、成績も上位で、元気に登校していた。
 しかし、3学期になってから「お腹(なか)が痛い」と授業中に訴えることが時々あり、ついに学校を休んだ。休んで2日目の夜、父親から電話があった。「どうやらいじめにあっているらしい。そのために学校に行きたくないと言っている」と。
 学級の中でA男をいじめている兆候など全くなかった。A男の家を訪ね、不安げなA男に「大丈夫。先生が守るから」と声をかけると、状況を話し始めた。実は隣のクラスの子にいじめられているという。これは想定外だった。
 よく知らない2人組がいて、会うたび廊下や階段の陰でたたかれたり蹴(け)られたりするという。「心配かけたくなくて、先生や親に訴えられなかった」と話す。
 翌日、2人組に話を聞くと、いじめを認めた。きちんとA男に謝り、二度としないと誓うよう指導した。
 A男は次の日、学校に来た。2人組が謝り、隣のクラスの担任も2人の家に連絡し、一応の解決という形にした。その後、A男は何とか3年生を乗り切った。
 だが、「いじめは許さない」と子どもたちに話してきた私には、苦い経験だった。もっと早くいじめに気付くことはできなかったのか、と。
 2年後、私が転勤をする時に、A男から手紙をもらった。「あの時は、僕をいじめから守ってくれてありがとう」と書かれていた。
 今もその手紙を見るたびに、「子どもの心を事前にキャッチできる教師であらねば」と思っている。(雅)
 ◇筆者は、小学校の男性教諭です。
(2006年5月22日 読売新聞)